ある駅での初恋/駅/ヒロ

それはいつもどおりの登校のときのこと。

俺はすっかり手慣れた動作で改札を抜け、ホームでいつもの電車を待っていた。

その時間はいつも手持ち無沙汰になる。かといってもあまりにギリギリでは座ることができない。朝からそんな無駄な体力は消耗したくはないので俺は余裕をもって登校していた。

俺はなんとなしに周りを眺めていると一人の女子の姿が目に入った。

年は俺と同じぐらい、容姿は悪くはないが、良すぎるほどではない。それでも俺の目は彼女にひきつけられていた。何故なのかその理由はわからないが俺は彼女のことが気になってしょうがなかったのだ。会ったことはどこかで会ったような気がする、と言えばわかるのではないだろうか。まさにそれはそういう感覚だった。

彼女に声をかけてみようか、と思った。しかし俺は今まで彼女がいたことなんてなく、クラスの女子ともめったに話すことはない。そんな俺は顔見知りでもない女子に積極的に話すなんてことできるわけもなく、結局迷っているうちに電車が到着し、彼女の姿もいつの間にか見失ってしまった。電車の移動音がやけに耳に虚しく響いていた。

 

それから俺はどうしても気になって毎朝彼女の姿を探した。彼女はしっかりした性格のようで毎朝同じ時間の電車に乗っていた。制服は近くの高校のものだった。そこはなかなかの進学校で従妹が通っているのだと、もっとお前も頑張れと親から怒られたときに引き合いに出されて聞いたことがあった。俺は話しかけようとして、彼女と同じ車両に乗りちらちらと視線を送っていたが勇気がでず、彼女を見守るだけだった。

彼女を初めて見たときから数か月経っても俺に話しかける勇気はでなかった。そうしている内に彼女を見守ることこそが俺のするべきことなんじゃないだろうか、急に話しかけて困らせるよりもただ見ているだけの方がいいんじゃないだろうかと思うようになっていた。

 

だがそんな生活は突然終わりを告げた。

ある日、いつものように彼女を見守っていたら、いつもとは様子が違うことに気づいた。よく見ると彼女の後ろに挙動不審な男が立っている。俺は閃いた、痴漢に違いないと。

彼女の危機、そう思うといつもは出なかった勇気が出てくる気がして俺はその痴漢に話しかけた。

「おい、おっさん。やめてやれよ」

痴漢はその声に反応して俺の方を向いて顔を歪めた。

「……? 何だい、君」

「いや、痴漢をだよ。あんたがしている痴漢をやめてやれって言ってるんだよ」

そこまで言うと男は改めて困惑に顔を歪めた。その表情は本当に困っているもので、とっさのごまかしのようには思えなかった。そのまま予想外の反応に戸惑っていると、彼女が声をかけてきた。

「あのー、いったい何でしょうか?」

「何って、あなたの様子が変だからてっきり俺はそこのやつがあなたに痴漢をしているんじゃないかと思って話しかけたんだけど……」

そこまで話すと彼女は驚き、申し訳なさそうに言った。

「いえ、この人は私の父なんです」

「え……。お父さん?」

「はい。実は家を出る前に少しケンカをしてて、誤解させてしまったようですいません」

「な、なるほどー。いえ、こちらこそすいませんでした」

恥ずかしくてたまらなかった。かっこつけようとして盛大に失敗して情けなくてどうしようもなかった。そのまま、三人で愛想笑いを浮かべ合っていると、電車が停車した。俺はそれがどの駅かも確認せず、「それではここで」と早口で言って飛び出した。周りの乗客の生暖かい目がいたたまれなかった。

そして俺の初恋は幕を閉じた。

さらにその後彼女が従妹だとわかって追い打ちがかかるのはまた別の話である。

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「ある駅での初恋/駅/ヒロ」への2件のフィードバック

  1. 実話かどうかはわからないが、非常に共感できる話で頷きながら読んでしまった。起承転結もはっきりしていて、非常にわかりやすい。わかりやすすぎるが故にオチもなんとなく見えてしまったのが残念だった。

  2. 物語の前置きが忠実に描かれていて話のテンポも良かったのだが、何故痴漢だと思ったのかという描写を具体的に加えればもうちょっと分かりやすかったかも知れない。あと結の部分にあたる二重のオチは少し蛇足のように感じた。

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