アイスクリーム/駅/フチ子

最近の悲しい出来事をお話ししますね。

その日は、ゼミが長引いてしまって、18時くらいまで大学に行ったんです。そのあと19時からバイトで、まあまあ時間的に追い詰められていました。秋の夜は意外にも冷え込んでしまうから、それが嫌でトレンチコートをおろした日だったんです。けれど猛スピード競歩を繰り返していたら、熱くなってしまって、うっすらと汗も出てきてしまいました。

iPodは耳元で「誰にも渡さない甘く冷たい アイスクリーム」と、歌い出しました。大好きなアイドル・亮くんが、やんちゃセクシー声で歌っているのです。アイスクリームか…と想像すると幸せで、あの形が、食感が、味が、恋しくなりました。ひょんっとした上の部分が可愛くて、ひんやり冷たくて、甘くて。夏は終わってしまったけれど、食べたい、食べたいで頭がいっぱい。

駅の近くのコンビニに急いで入りました。もうおでんが並んでいて、コンビニ特製のソフトクリームは宣伝していませんでした(もしかして売っていたかもしれないけれど、急いでいて見てなかった)。しょうがないからアイスコーナーに走ります。そこには、秋だから、新商品のチョコ味のアイスが多く並べてありました。チョコもなかアイスや、板チョコアイス、生チョコが入った棒アイス。私は生粋のチョコレート愛好家で、それらのアイスクリームには目がないのですが、今回はあまり惹かれませんでした。

私は亮くんの声によってソフトクリームが食べたくなったのだ。季節外れだけれど、これほどまで、駆り立てられて、食べたくて食べたくて仕方がなくなったのだ。いいのか。アイスクリームで妥協して、本当にいいのか…。

そこで輝いてみえたのが、アイスクリームコーナーにあったソフトクリーム型のアイスクリーム。ああ、これなら…。達成感を感じつつ、レジに持っていき、購入。その時はとっても嬉しかったんです。

電車に乗る前に食べ終わりたかったから急いでふたを開けてかぶりつきました。頭の中ではソフトクリームだったので、躊躇なく、そりゃもう、ガブっと。

あまりにも硬くて、あまりにも冷たくて。歯茎の裏を切りました。アイスクリームには血が付いています。それでも、念願のソフトクリームのようなものだから。念願中の念願だから…。

もうこれに乗らなきゃ遅刻だ、という電車が来ました。硬いから、歯にしみるから、全然早く食べられず、苦戦します。ソフトクリーム型のアイスクリームは基本そんなに美味しくないですが、これもまたそうでした。仕方なく、恥ずかしいけれど、血だらけのアイスクリーム片手に乗車。トレンチコートで、10月半ばで、血だらけのアイスクリームを食べる自分に興奮しました。ああ、亮くんの声だけで、ここまで行動できるんだ、ここまで恥ずかしいことできるんだ…と。

今さっき、亮くんの曲『アイスクリーム』を聞きながら、文章のイメージを作るために、アイスクリームを画像検索したら絶望しましたが。

 

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「アイスクリーム/駅/フチ子」への2件のフィードバック

  1. 最終的に自分に酔ってしまったので、悲しい出来事?というと疑問が残るのが正直な感想です。文体はいつもと比べればフラットですが、それでも自分を押し出せるのはフチ子さんの強みですね。余談ですが、Twitterでこのネタを見たとき、ワークショップに使われるかもなーと思っていたらドンピシャだったのでちょっと笑いました。

  2. トレンチで血を流しながらアイスを食べる女子大生の絵面を想像して悲惨さにおののきました。さらに、本人はその悲惨な出来事さえも好きなアイドルに陶酔する要素にしているのでこいつはやべーな、と思いました。突き抜けててインパクトはあると思います。
    ただ、そのインパクトが文体に殺されている気がする。ですます調を使うこと自体はかまわないと思うのだが、肝心な「アイスクリーム」を食べて(「甘い」でも「おいしい」でもなく)「痛い!」となるところに読者は「えっ?」と思えるのだけど、その「アイスクリーム」から「痛い!」へのスピード感が死んでしまって衝撃が軽減してしまった印象。緩急のつけ方にエッジがきいているとよかったのではないでしょうか。

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