変態/駅/ピーポ

ふと、サラリーマン風の男が目についた。体格がよく、ぱりっとしたスーツを着込んでいる。髪型もさっぱりとして洗練されており、全体的にどこかオシャレさを感じさせる。こいつはどんな人生を送っているのだろうか。よし、今日のターゲットはこいつにしよう。そう思うと同時に、私はそっとその男の後ろをついていった。

私の趣味はストーキングである。何も予定のない休日は駅に来て、目についた他人の後をこっそりつけるのだ。特に何をするわけでもなく、ただ、その他人の一日の生活を覗き見るだけ。ただそれだけなのだが、自分の全く知らない世界を発見することも多々ある、非常に心踊るものなのだ。

男は大股でスタスタと歩き、オフィス街へと向かっていく。私は男を見失わないよう着いていくのに必死だった。追いかけてしばらく経つが、男は止まる様子がない。オフィス街を通り過ぎ、どんどん人気のない方向へと進んでいく。そして、雑居ビルの角を曲がった瞬間、私は肝を冷やした。男がこちらを向いて立っていたのだ。とっさに逃げようとした私の腕を掴んで、男はこう言った。

「私の後をつけていましたね」

男の発する声は恐ろしく無機質で、感情というものが微塵も含まれておらず、私はこれからどうなるのかと不気味な恐怖を感じた。私が無言でいると、男は一瞬クスリと笑い、懐から何かを取り出した。次の瞬間、私の体に衝撃が走り、気づくと私は地面に倒れていた。体が硬直して思うように動かない。地面に這いつくばりながら何とか男を見上げると、男の手には黒い物体が握られている。どうやらスタンガンをうたれたようだ。その後、男は横たわる私の隣でスーツケースを広げるとおもむろに注射器のようなものを取り出し、私の腕に突き刺した。その瞬間、私の視界はぐにゃりと歪み、意識が段々と遠のいていった。意識の片隅で「おやすみなさい」と言う男の声を聞きながら、私は気を失ってしまった。

どれくらい経ったのだろうか、目を覚ますと私は知らない駅に座っていた。一体ここはどこなのか。とりあえず地面から立ち上がろうとした私は奇妙な違和感に気づいた。足に力を入れようとしても全くうまくいかないのだ。足だけではない、体全体が全く動かせないのである。どれだけ動こうと努力しても、だ。私は動くことを諦め、ひたすらじっとしている他無かった。すると、しばらくして列車がやってくる音がした。列車は駅に停車し、そのピカピカに磨かれた車窓に駅の風景が写った。しかし、そこに私の姿はなかった。私は内心パニックになりながらも身動きの取れない状況にイライラしていた。しばらくすると、体の上にずっしりとした重さを感じた。何かが私の上に乗っているようだ。私は理解し難い状況に半ば錯乱状態となっていた。すると、次の列車がやってきた。その電車の窓にはベンチに座った若い女性の姿だけが写っており、やはり私の姿はない。その女性がふと立ち上がったとき、突然私にかかっていた重さが消えた。

私はベンチになったのだ。

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「変態/駅/ピーポ」への1件のフィードバック

  1. 主人公がターゲットに何かするのかなと思いながら読み進めていたが、実際はその逆のパターンで予想をいい意味で裏切られた。急に突拍子も無くベンチになるというのは中々シュールだったが勢いに負けてクスリと笑ってしまった。また趣味がストーキングという「変態」とベンチに「変態」するというダブルミーニングを持ったタイトルはうまいなと感じた。

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