ある少年/駅/シュウ

「駅長。今日もまたあの子が来てますよ」
「また来ているのか……。なにをしに来ているんだろうな」
今週に入ってから、毎日同じ少年を見かけていた。地元の高校生のようだが、学ランを着ていて、背はそんなに高くはない。まだ顔には幼さを感じさせる。まだ入学して間もない一年生なのだろうか。見かけたというと少し勘違いをさせてしまうだろう。彼は、毎日夕方になると飽きもせず同じ場所に立って新幹線を見ていた。
あの子は何がしたいのだろうか。見たところカメラも持っていないし、鉄ちゃんというわけではなさそうだ。もしかしたら、渋谷の忠犬ハチ公よろしく、旅立っていった人を、ああやってけなげに待っているのかもしれない。流石にそれはないか、でも気になるなと思いつつ仕事に戻ると、部下がまた声をかけてきた。
「僕、話を聞きに行ってきましょうか? 最悪の場合、警察の案件になるかもしれませんし」
「いや、私が行ってくる。お前はサボらずに仕事をしていなさい」
「……わかりました」
部下は渋々自分の席に戻っていった。やや強引かもしれなかったが、気になったものが他人に取られるというのが嫌だった。我ながら狭量である。
彼に話しかけようと思って、近くまで行くと、逆に彼から話しかけられた。「あれ? 駅長さんじゃないですか。どうしたんですか? こんなところで」
顔を知られていた。別に顔を隠しているわけではないので、知られていてもおかしくはないが、珍しい子だった。
「そりゃ顔を知ってますよ。自分の住んでいる町の市長の顔だって、みんな知っているじゃないですか。いつも使っている駅の駅長さんの顔だって知っていて当たり前じゃないですか」
「当たり前かどうかは置いておくとして」 私は本題を切り出した。
「どうして、ここ数日毎日のようにここに立っているんだい? 別に写真を撮りに来ている鉄ちゃんというわけでもないんだろう? それとも誰か待っているのかい?」
「鉄ちゃんではないですけど、もともと新幹線は好きですよ。旅はゆっくりがいいという人がいますが、当然速いほうがいいじゃないですか。速さはロマンです」 話好きなのだろうか、話が逸れだした。
「話が逸れましたけど、どっかの忠犬みたいに別に誰かを待っているわけではないです。ただ、今週いつもはない新幹線の組み合わせが見られるってのを聞いたんで。いつ来るかはしりませんけど。それで仕方なく毎日見に来てたんです」
気になっていたことがあっさり解決してしまって拍子抜けした。別にハチ公でも何でもなかった。ただ新幹線を見に来ただけか。その新幹線についてなら聞いているし、確かもうすぐこの駅に来るはずだ。
「ああ、運がよかったね。それなら、もう後 30 分くらいでこの駅に到着するよ。中に入れてあげるから、中で見ていくかい?」
「いいんですか? ありがとうございます。うれしいなあ、ここからじゃ見えるには見えるけど、よく見えなくって」
彼をプラットホームまで、案内した。彼は饒舌で、訊いてもいないのに彼の高校の話や、彼の趣味について聞かされる羽目になった。彼の目的も、もう分かったし、仕事をほっぽりだして出てきてしまったので、もう戻りたかった。そうこうしているうちに、彼が見たがっていた新幹線がやってくる時間になってしまった。新幹線がプラットホームに入ってきて、停車した。
「駅長さん、見てください」
彼は連結部を指さして言った。
「あそこに僕がいます」
彼の名前は「奈須野翼」というらしい。

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