彼岸列車/駅/JBoy

生ぬるい風が頬を伝っていき、人っ子一人いない駅のホームで一人煙草をふかしていた。
気が付くともう7,8 本は吸っただろか…。スーツの胸ポケットには乗車券が入っている。
「閻魔宮前」。乗車券を取り出し眺めながら、もう何本目かわからない煙草に火をつけた。

私は死んだ。

もう心も体も疲れ切っていた。以前は快活な男であった。毎日一生懸命働いて、たまに付
き合いで同僚や友人たちと飲みに出掛けはするがそれ以外の日は寄り道もせずまっすぐに
家路につくような男であった。何よりも家族を愛していたのだ。毎日がたまらなく幸せだっ
た。
その日は突然に訪れた。いつものように帰途に就くのを楽しみにしながら勤務している
最中のことだった。携帯の着信は知らない番号からで妻と子供の死を告げるものだった。上
司にも連絡せず指示されたところへと向かうと、そこには朝まで元気に見送ってくれた最
愛の妻とわが子の亡骸が横たわっていた。涙など出なかった。ただ目の前の現実に対し厳然
と対処できる術を知らなかったのである。
私はその後というもの生きているか、死んでいるかもわからない生活を送っていた。会社
にもいかず昼間から酒とたばこ。ひげも髪の毛も処理されず伸びきったまま。すべての生気
は体から脱落し、首に縄を絞め自らその命を絶った。

私はこうして死んだ。

私は宗教信仰などをしていなかったものの死後の世界というものには少し興があった。
しかしこちらの世界はあまりに想像と異なっていた。生前の世界と変わりないような光景
が広がっていた。正装の紳士が近づき私を案内した。
「はいご愁傷さまでした。こちらで身なりを整えた後この死亡証明書を書いて向こうの係
員に渡してください。お書きいただいた死亡証明書は係の者が乗車券と交換いたします。」
「わかりました。」
人は一度死ぬとたいていのことは受け入れられるようになるらしい。とりあえず言われ
たとおりにする。ひげをそり髪を束ね、スーツに身を包む。係員に証明書を渡す。
「こちらが乗車券になります。すぐそばの『彼岸駅』から途中『三途駅』で乗り換えて『閻
魔宮前』でお降りください。そこで閻魔様に謁見し、審判を受けてください。その後天国へ
行くか地獄へ行くか決まります。」
「了解しました。」ここまで来たら怖いものなど何もない。
ポケットにはいくらか小銭が入っていたのでコンビニでタバコとライターを買い(普通
ならあの世にコンビニがあること自体に驚くが…)、彼岸駅で列車を待ち煙草をふかしてい
たところであった。
ようやく三途駅行きの列車に乗り、ボックスタイプの席に座ると、一人の子供と同席し
た。ちょうど息子と同じくらいの年齢だろうか、その子が私に話しかける。
「おじさんは何で死んだの?病気?」
「奥さんと子供が亡くなってね、それでもうどうでもよくなって死んだんだ。」
「ふうん。僕はね、車にはねられて死んだんだ。」
「そうか。一人で寂しくないのか?」
「平気。元々一人みたいなもんだったし。」
話をしているうち「花畑駅」に着き、じゃあねと言ってその子は下りてしまった。

あの子はいったいどこへ行くのだろう。こっちの世界で暮らしているのか。いろいろと疑
問が湧き始める。私は自分は天国と地獄だったらどっちに行くのだろうと考えた。死してか
ら人間臭い思案をする自分が少しおかしかった。
そのとき車内アナウンスがあった。
「お客様にお知らせいたします。先発の列車人身事故の影響でしばらくの間停車いたしま
す。ご迷惑おかけして申し訳ございません。」
あの世で人身事故なんて皮肉なもんだな、と思いながら窓を開け煙草をふかしていた。

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「彼岸列車/駅/JBoy」への2件のフィードバック

  1. アイデアも描写も悪くは無いのに、この文章全体を貫く軸が不明瞭で、何故これを書いたのか、という疑問が浮かぶ。言うなれば、小説の一部分を取り出したような感じ。各々の要素が関係せずにただ書かれているだけでしかないように感じる。

  2. 山百合さんもおっしゃっていますが、全体的に不明瞭というかふわふわしている印象を受けました。今回は起承転結がはっきりしたもの、という指定があったと思いますが、結の部分が弱い気がします。構想はとても面白く、なるほどなぁと思いました。

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