無題/駅/きりん

「……ここどこだろう?まだ?もう過ぎた?」
日が暮れると冷え込む秋の季節である。学校帰りの電車のなかで、ふと気がつくと今どのあたりなのか分からなくなってしまったのだ。またうたたねでもしていたのだろう。意識が戻る直前に、ぐらりと頭を揺らされたような感覚がしたのだ。しかし、非常に、非常に困っている。先ほどから注意はしているが、車内アナウンスがない。車内に電光掲示板もない。頼りは周りの景色のみ。私の視力では窓の外を通過する駅や看板の名前は視認できないし、景色といってもすでに外は日も暮れ、大して特徴もない住宅街が闇に沈んでいるのみである。日本の電車ってこんなに分かり難かっただろうか。急に不安になって、半ば無意識に鞄を胸元へと引き寄せた。立っている人こそ少ないが、一目を気にする程度には乗客もいる。人に尋ねるのは最終手段にしよう、とひそかに決めて、いったん落ち着こうと試みる。窓の外の黒い景色を注視しつつ、私はひとまず電車が止まるのを待つことにした。
しばらくして、ようやく電車が減速し、やがて駅にとまった。ドアが開き、同じ車両からもちらほらと乗客が降りていく。見覚えのある駅か確かめようと身をひねったが、ちょうど駅名表示のない部分なのか、窓の外には文字の一つも見当たらなかった。なんだか今日は妙にどこのホームが暗い気がする。
そうこうしているうちにドアが閉まってしまった。アナウンスがはいることもなく、次第に加速していく。ガタゴトという音が妙に耳につくな、と思ったら、車内で話している人がいなかった。視線を上げるのが怖くなる。車窓に目をそらし、外の景色を注視して窓ガラスに映る車内の様子を必死に意識から遠ざけようとした。住宅街の黒い屋根の上を、明るい影がすべるように走っている。この車内と、それを映す影だけが妙に明るい。
以降、三回電車が止まるまで、私はずっと車窓を眺めていた。見覚えのある景色はまだ現れない。やはりアナウンスもはいらない。この次で気がついてから四駅目である。私はついに決心した。これ以上乗っていても不安が増すばかりである。他の乗客に確認してみよう。大分人もまばらになった車内で、ななめ向かいに座る人のよさそうなサラリーマンに声をかけることにした。静かに立ち上がり、傍までいって彼をうかがう。
「あの、すいません。この電車が今どの辺を走っているか、ご存知ですか?どうもうたた寝をしていたら見失ってしまったみたいで……」顔を上げたその人は、随分と驚いたようだった。
「お嬢さん、なんでこんな電車に乗ってるの!」
「え?」
「あちゃあ。寝ぼけてたんだよ、きっと。うちの最寄は?どこ?」
「えと、所無駅です」
「なんだって!?ああ、ちょうどそこに差し掛かる。いいから早くその窓から外にとび降りるんだ」
外を見れば、ちょうど通過するらしい駅にさしかかるところだった。
「え、いや、無理ですよ!」
「いいから!早く!」
そしておじさんはなんとも乱暴な行動に出た。急に立ち上がったかと思うと、私の腕をつかんでハンマー投げよろしく窓ガラスへと私の体をたたきつけたのだ!
いや、たたきつけられるはずだった。実際には、体がぐわっと浮いた感覚がした後、窓ガラスが目の前に迫った瞬間、私は見覚えのあるホームに着地していた。我ながら見事なフォームである。あわてて後ろを振り返ると、そこに電車の影もなく、反対方面のホームがあるだけだった。どうやら電車の窓から放り出されたようだったのだが、どういうことなのだろう。おまけにここは所無駅のようである。駅名表示がちゃんとある。“まもなく電車が通過します…黄色い線の…”アナウンスが聞こえて我に返った。知らずとつまっていた息を吐き出す。多分、あれは生身の人間が乗ってはいけない類のものだったのだろう。なぜこんな体験をしたのかはわからなかったが、とりあえず私は家路についた。

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「無題/駅/きりん」への3件のフィードバック

  1. オチのある話の筆頭としてこの手の話はあるよな、と思った。誰が書いても怖いんだよね、普通なら乗らない電車に乗る感じ…こわいこわい。
    よくある題材でもオリジナリティーをいかに付けるかで印象が変わってくるかなあと思います。
    ひと段落ずつが長めなので、できればもう少し細かく段落分けるか、段落と段落の間を一行あけるか工夫するともっと読みやすいと思います。

  2. すみません、レイアウトについては投稿時にオリジナルと変わってしまっているので、今回は考慮に入れないでもらえると助かります。今回はそれ以外にも、体裁が整ってないものが多かったので全体的に読みづらいかもしれません。余裕があればよかったのですが、修正する労力と時間が足りずそのままコピー&ペーストするしかありませんでした。ごめんなさい。もっとも、今後はこのブログで見たまま(WYSIWYG)編集できるので、次回以降は問題ないと思います。

  3. セリフの使い方をもっと工夫すべきでは。冒頭がいきなり説明的すぎる。まだ? もう着いた? というのは駅名などを確認する描写があるからその辺に地の文として織り込んでもいい気がした。個人的には、カギかっこに対しては実際に口に出して喋っている言葉で他人にも聞こえてしまう言葉だと思うから、ひとりごとにしてもこんなふうに説明的になるのだろうかといちいち気になってしまう性質だ。
    あとは単純に、地の文との比率を考えてうまく息抜きとしてカギかっこは使えばよいのではないだろうか。後半は地の文が続いてしまっているから、サラリーマンに声をかけるくだりも「他の乗客に確認してみよう」の後にもうセリフを入れて声をかけてしまって、そのあとにサラリーマンの描写を入れると地の文を分散させられるのではないか。

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