見つからない話/駅/温帯魚

経験則として。なくしてはいけないと気を付けているものほど、なくなる。バイトの面接の履歴書に貼る写真とか、卒業式当日に学生章とか。まあいつか見た夢とか命の大切さとかも入るかもしれない。だから当然のことながら、駅に降りると切符は、なくなる。

 

皆さんは経験ないだろうか。電車から駅に降りて改札の前まで歩き、いざという段になってズボンのポケットにはなぜか入っていない。ということ。

足を止めてあらためてポケットの中身をすべて出してみるが、両手をふさぐものの中にオレンジ色は見当たらない、みたいな。周りとのテンポの違いに居心地を悪くしながら財布を確かめカバンをひっくり返し、やはり見つからず途方に暮れる、みたいな。まさか電車に落としたか、と青くなったところで悪あがきに手を差し込んだ上着の胸ポケットからひょいと見つかる。みたいな。

僕はあるしょっちゅうだ。三回に一回ぐらい。というかありすぎて、なくさないようにわざわざ切符の位置を工夫して、結局その場所まで忘れて余計見つけにくくしたことだって一度や二度じゃない。

 

そんな風に経験豊富な僕だが、一度半端じゃなく見つからないことがあった。

その日は待ち合わせをしていたから割と急いでいた。正確に言うと人より二十分ほど早くついてなければいけなくて、しかし例によって寝坊した。まあ急げば予定通りぐらいの時間だったから朝飯も食わずに飛び出して、結果余計イライラして探す手つきもスマートではなかったし、今になって考えると切符を適当に入れたのもそれが原因の気がしてくる。数十分ある電車の中で本に夢中になって、危うく降り損ねそうになったというのも、もちろんある。

だから改札の前で切符が見つからなかったときは本当に焦った。誰もいない財布のカードを全部取り出して、カバンのファイルを確認して、なにをとち狂ったが靴まで脱いで中を探るようなありさまだ。ねえよ。あったら逆に気づくよ。自慢じゃないが僕の足の指は結構動く。まあそれぐらい頭が動いていなかったと思っていただきたい。

で、見つからないまま時が過ぎていった。確か時間がそんなに近くはないはずの次の電車がそろそろ到着する、ぐらいだったと思う。

 

あまりに見つからず半ば自暴自棄になって、時計を見ようとぱっと目線を上げると、そこには一人の男が一心不乱にスーツのジャケットをひっくり返していた。ばっさばっさ、ばっさばっさと。今思い起こすとかなり精神的に不安定な光景ではある。

人間というのは不思議なもので、この時私は一瞬で理解した。ああこの人は僕と同じだ。切符なくしたんだ、と。きっと彼も遠足前日にバッグを探す人なのだろう、とも。

そこで私は三つの感情を抱いた。一つ、感動。同じ駅の構内で同じ時間に切符をなくす人が今までどれだけいただろうか、いやいない。まさに奇跡、運命だった。そこには確かな絆があり、かすれたような現代を潤わせる偶然だった。一つ、馬鹿馬鹿しさ。言わずもがな。

そして一つ。驚き。彼はスーツを再び羽織ると、今度はカバンから新書を取り出し、ページを捲り出したのだ。そうだ、文庫本だ。栞代わりに文庫本の中に挟んだ気がする。こんなすぐのことも忘れていたなんて。電撃が走った。出口に走った。振り返ると彼はファイルの中から一枚の紙を取り出していた。最後に目が合った気がした。

 

オチを言うと、急いだ必要はなかった。後から来る人たちがことごとく電車の遅延で遅刻したからだ。最終的に十分朝飯をとる時間があったし、駅員さんに相談して再びお金を払うことなく筆箱の中に入れた切符を見付ける時間も、十分にあった。

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「見つからない話/駅/温帯魚」への3件のフィードバック

  1. なんだろう。他の一年もだけど滑らない話なんだからもうちょい落ちに拘んなきゃ。ある程度予想外が発生しないと何もおもろくないよ。あとやっぱり、先週もだけどこう一つ一つの文から目的が見てとれないっていうのかな。このお題で試されてるのはゴールまで綺麗に持っていく力とそのゴールの持つ力だと思うから、その辺意識して書くと良いかな。だから落ちを言うとなんて書き方はダメだと思う。

  2. 落ちてない気がする。脱線が多いというか、不用な言葉が多い文章も、それはそれで味があるけれど、上手くやらないと単純に読みにくい。

  3. 丁寧な文章を書くのかなと思わせておいて、ところどころで雑な言葉遣いが見られるのが残念。世界に入り込んで欲しい。

    自分の思ったようにダラダラと書き連ねる文章は、オチをつけるというテーマにはあいづらいかなという印象。文体から考えると良かった。

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