彩音/青春/T

彩音は学校からの帰り道、自分のことばっかりしゃべる。

この高校に入ってすぐ彩音とは友達になったし、毎日一緒に帰ったり遊んだりしているからわりと慣れたけど、それでもこの子は本当によくしゃべるなぁと今も思う。まるで人に食ってかかるような熱量とスピードで語ってくるから、話し相手は黙って彼女の話を聞かざるをえないのだ。

彩音はジャニーズのファンで、ずっとそのことばっかりしゃべっている。

私も嵐とか関ジャニ∞とかはなんとなく知っている。けれど彩音はジャニーズの中でもまだデビューしていない「ジャニーズジュニア」とかいう人達の熱烈なファンで、自分と同い年とかそれより下の男の子を追っかけている。CDデビューしていない人たちだから今は有名なグループの後ろで踊ってるんだけど、これから絶対この子とこの子がくるからマジで絶対、あ、なんか分かんないことあったら教えてあげるよ…っていう話を、ジャニーズに何の興味の無い私に延々としてくる。それでも私は彩音に話を合わせてあげないとって思ったから、色々聞いてるうちに顔も知らないナントカ君の好きな食べ物とかまで覚えてしまった。

ジャニーズ専門用語みたいなのもあって、最初は一つ一つ説明してもらわないと彩音が何のことを話しているのか分からないこともあった。自分のお気に入りの子のファンでいることを「~担当」って言うらしいんだけど、それを聞くたびに私はなんか掃除分担みたいだなって今でも可笑しくなってしまう。

 

 

「昨日のMステの嵐のバックにさ~!あの子いたんだよ~!」

「へえ~すごい。よかったじゃん。」

「ジュニアが嵐のバックで踊るの久々だったからさ~…」

 

…私も昨日Mステ観てたけど、バックダンサーなんかに目行かなかったよ。後ろのほうで踊ってる人が誰だかわかるなんて、好きってすごいなと感心する。

自分の好きな人や物のことを話している人は本当に楽しそうで、聞いてるこっちまでなぜか楽しい気分になってくることもある。私には人に話すほどの趣味とかないし、人の話聞くのも嫌いじゃないから、彩音の話をただ聞いて、気になった事は質問してみたりする。

でも私が今日みたいにちょっと機嫌の悪い日に超テキトーな返事をしたりしても、彩音はそんなこと関係なくいつもと同じように話す。そんなときは話し相手が別に私じゃなくてもいいんじゃないかなって思ったりもするのだ。話すなら私以外のもっとジャニーズに詳しい友達の方がいいだろうし、自分の話を聞いてくれたら相手は誰でもいいと思っているのかもしれない。話に合わせて適当な相槌を自動再生してくれるロボットなんかがあったら、それに向かって彩音はずっとしゃべっていそうだ。

 

 

「ちょっと、涼香聞いてる?」

「あ、ごめん。あれでしょ、来週大阪でやる舞台観に行くんでしょ。」

「そうなんだよ~!それでね…」

他の女子だったら自分のことも話したいだろうし、常にマシンガントークの彩音のことをウザいなこいつって思ったりもするだろう。ロボットじゃこんな臨機応変に彩音に対応できないだろうし、やっぱり人間の私なのかな。

 

家に帰る私と別れて、駅の改札へと向かう彩音はいつもどことなく満足そうだ。自分の中に溜まっていたものを出しきったというような顔をして、私にバイバイと言う。全く興味のない話を聞いて少し疲れた私も、彼女にじゃあねと言う。

でも改札の方へ振り向く瞬間に、彩音は決まって悲しそうというか寂しそうというか、なんともいえない顔をするのだ。その表情を見ると私はどうしても彼女のことを憎めないし、彩音とずっと友達でいようだなんて思ってしまう。私は彼女のことが全く好きではないのに。

改札の奥へ消えていく彩音を見送りながら、明日はもっと優秀な彩音専用ロボになって、ちゃんと話をきいてあげようって思って、それから私も家に帰った。

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「彩音/青春/T」への4件のフィードバック

  1. 嫌いと言いながら、なんだかんだ付き合ってあげる涼香ちゃんかわいいですね。表面だけ仲良しの女子の闇の話かと思っていましたが、救われました。
    学生らしい、退屈な日を思い出します。昔こういう経験したことあるので……。
    輝きはないかもしれませんが、こういう毎日も確かに青春の日と言えるかもしれませんね。

  2. このだらだらとしたいつもの日常の風景が、逆にとってもリアルで昔を思い出してしまいました。うざいけどなんか憎めない、友達でいたいなっていう気持ちも共感できます。
    ジャニーズについて書いている部分がすごく詳しかったのですが、身近に彩音ちゃんのモデルになった方がいるのでしょうか?

  3. ああこういうのってあるよなあと思います。どっちの役もやったことがある気がする。なんだか切ないし暖かくなりました。

    モデルがいるかのようなリアリティーで、退屈だけど楽しかったです。

  4. ああこういうのってあるよなあと思います。どっちの役もやったことがある気がする。なんだか切ないしあたたかくなりました。

    モデルがいるかのようなリアリティーで、退屈だけど楽しかったです。

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