青春の夜/青春/きりん

昨今のハロウィンの盛り上がりは一体なんなのだろうか。誰もが持っている変身願望的なものをコスプレという形で叶える良いお題目か?日本人の商業根性とお祭根性の賜物? 十月三十一日現在 21 時。人気のない駅地下鉄のホームを、竜は足早に歩いていた。改札を出ると、入れ替わるように悪魔の角をつけた中年男性が入っていった。女子供ならともかく、恰幅のいい大の男である。目を疑いつつ、ハロウィンの夜の関内へ踏み入れる。
さっきまで大学の文化祭でひたすらに焼きそばを焼いていたので、腹が減っているにも関わらず食欲がない。それだけ疲れているのかもしれなかった。明日は6時の電車に乗らなくてはならないのに。しかし知り合い、もとい恩師にあたるジャズピアニストのライブがあるならば、行かないわけにもいかなかった。
ネオンに照らされる路地を彷徨っていく。ドラゴンボール一行とすれ違い、バーテン服の客引きの視線を感じながらも、ひっそりと建つ雑居ビルへたどり着いた。もう何度か足を運んだ建物だが、なぜかいつも迷ってしまうのはこの地味な外観のせいだと思っている。確か、
店は四階だったはずだ。狭苦しいエレベーターに乗り込んでボタンを押す。

ためらうことなくドアを開けると、かすかな煙草の匂いと明るいざわめきに包まれた。どうやら後半の部を始める前の歓談中のようだ。カウンターの端に立つ、顔色の良い、随分と肉感的なマレフィセントが妖艶に微笑んでいた。次いで目にはいった手前の顔見知りの客らに会釈をし、彼女のもとへと歩み寄る。
「こんばんは」マレフィセントはまた妖艶に薄く微笑む。
「いらっしゃい」その横に顔を出したのはダースベイダーだ。黒々としたマスクのインパクトが強すぎて、何を言われたのかもよくわからなかった。今夜の店は悪役に乗っ取られているらしい。
「……こんばんは」どうにか頭を下げると、今度は横合いから騒がしい声がかかった。
「おー!きたきた!遅かったじゃないか!こっち座れ!」
「竜くん、こんばんはー」
「こんばんはー!」
酔っ払いが……四人。残念ながら今夜の待ち合わせ相手だった。

「今いくつだっけー?」
「大学の一年生ですよ」
「青春だねー!大学楽しいでしょー?」
「……まあそれなりに」
三十を過ぎると途端にいや~青春だね!の押しが強くなるのはなぜだろう。同じテーブルについていたのはそろって俺より二十歳は上のおやじども四人だった。そのうち一人は残念ながらうちの親父。そのいとこの泰一さん。近所の坂井さん。恩師つながりで面識のあるご老体。この状況でいったい何が青春なんだろうか。机の上には中身の減ったグラスと、なぜか仮面が無造作に置かれていた。「竜なに飲むんだ?なんか食うか?」
「あ、竜くんこれ着なよ!」どこからかドラキュラのようなマントを取り出してはしゃぐ彼らを、半ば無視してダースベイダーにピザを注文した。
ピザが来るよりも先に後半のステージは始まった。ピアニストである恩師は黒いハットに黒いブーツ、赤い海賊のドレス。彼女は母と同い年だが、そのミニスカートにまったく違和感がないことに恐怖さえ覚える。ベーシストはこちらもまた膝上丈のメイド姿。一瞬気付けなかったが、彼は長身と甘いフェイスが武器の三十を過ぎた男である。ドラマーは、ファラオの恰好をしていた。
ジャズ、というと喫茶店ででも流れていそうなイメージがあるが、実際のライブは全く違う音楽だ。演奏者と客が一緒になって盛り上がる。恩師の演奏は特に熱く、激しい。あの小柄な女性のどこにあんなパワーがあるのか。
ベースのメイドはメイドなのに女性客の視線を釘づけにしていた。
ドラムのファラオは頭の両脇をパタパタさせながら、ちょっと感動するぐらい良い演奏をした。

あっという間に過ぎていく時間のなかで、これもまた青春なのだと納得できる自分がいた。

0 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 5 (0 投票, 平均点: 0.00,  総合点:0  |  
投票する為にはユーザ登録する必要があります。
Loading...

「青春の夜/青春/きりん」への2件のフィードバック

  1. 描写が色々リアリティーがあって実際にこの現場を目撃したのではないかと思うほどでこれほどの創造力があればなと感じた。しかし、自分の青春の枠が狭いのかも知れないが青春というテーマを話に無理矢理こじつけているようにも思えた。

  2. 青春=学校、恋愛、部活みたいなところに囚われず、自分なりにテーマを解釈できていておもしろかった。たしかに青春って何歳までとか決まっていないよな、と思った。テーマを意識してだろうけど、無理に「青春」というワードを繰り返し登場させる必要はないと思う。雰囲気からなんとなく「青春」を漂わせるだけの方が、独特な「青春」観が生きるような気がする。
    段落はちゃんと変わっているから意図してそうしているのかも知れないが、行間もときどき空けた方が読みやすいと思う。
    上にもあるが、状況や出てくる仮装のバラエティーなど、テンプレートでなさ過ぎて、実際に見たものを描いたのか、半端ない想像力なのか気になってしまった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。