交差/青春/ゆさん

 

僕の青春は、君そのものだったけれど、君に出会った瞬間に僕の青春は終わったに等しい。絶対に叶わない思いを抱き続ける青春なんて、そんなの終わっているに等しい。いや、その思いが果てることもないのだから、いわばゾンビのようなものだ。

 

出会いは語るのも恥ずかしい程にありきたりだ。高校一年生のクラスで初めて出会った君は、その場の光をすべて背から浴びているかのような輝きを放っていた。それほどに君は美しく、君に目を奪われていたのは僕だけじゃない。君は入学してすぐに学年の、いや全校のマドンナになった。それに対し僕は、これまたありきたりな、暗い、汚い、気持ち悪いが三拍子揃った、模範的カースト最下層の住人だった。キモいだのなんだのという陰口はそれまでの人生でとうに聞き飽き、靴を隠されることや机に落書きをされることなど、とりあえず一通りは経験してきた。これからの三年間はせめて何を言われても、されても傷付かないような精神力を身に付けよう、と悲しい決心をしていた。

しかし君は、そんな僕にも笑顔であいさつをし、配布物を手渡し、落とした消しゴムを拾ってくれるのだ。そんな当たり前のことですら僕にとっては新鮮で、いつも嬉しいやら恥ずかしいやらで泣きそうになるのを必死にこらえていた。間違いなくあの教室で、君だけが僕にとっての絶対だった。圧倒的な美しさが周囲に与える影響力はとても大きなものだ。君が僕なんかにも分け隔てなく接してくれていたから、そのクラスで僕がいじめられることは無かった。

 

君が斜め前の席だったときのことを思い出す。振り向くな。黒板を見る横顔の、小さな耳たぶを、長いまつげを、すっと通った鼻筋を、赤い唇を、ただ見つめている。振り向くな。そう念じながら盗み見ていたのに、視線を感じたのか君が振り返って僕に微笑み、すぐに黒板に向き直る。その目に映りたい、映りたくない。ぐちゃぐちゃの感情でいっぱいになった僕の心など君は一生知ることは無い。

 

 

 

懐かしいことを思い出してしまった。我に返り必死でペンライトを振り、推しの名を叫ぶ。きっと今日の髪型が、あの日の君のようなポニーテールだからなのだろう。君の娘は、君に瓜二つだ。

 

君の娘を見た瞬間、すぐにわかった。むしろ、君本人かと思った。それほどまでに、君の娘は君に似ている。

高校三年の冬、君はモデルにスカウトされたと言って喜んでいた。しかし、親の許しを得られず、そのまま君は大学進学することを決めた。君は自分の美しさをひけらかすような女ではなかったけれど、それに対する確かな自信はあったのだろう。華々しい世界を夢見ながらも叶えることができなかった、という思いを娘に託しているのだろうか。

君の娘のステージを見て、君の娘の名前を呼んでいるが、僕が見ているのは間違いなく君の姿だ。きっと君は僕のことなんて覚えてはいないと思うが、高校を卒業し、十数年経った後もなお自分に一方的な憧れを抱いている男が、アイドルをやっている娘と高校時代の自分の姿を重ねていると知ったら、きっと気持ち悪いと感じるだろう。それを想像すると、どうしようもない興奮を覚えてしまう。

君もきっと、娘と自らを重ねているのだろう。自分が叶えられなかった青春の姿を、娘に見ているのだろう。その姿を、僕が見る。君の青春と僕の青春が、やっと交差する。僕の青春は君によって終わらせられたけれど、それを生かし続けるのもまた、君なのだ。

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「交差/青春/ゆさん」への1件のフィードバック

  1. 気持ち悪さが絶妙でした。どうしても男性目線だと気持ち悪い感じに走ってしまいがちですが、その中でもリアリティーがあってよく考えられた話だと思いました。

    話はいいなあと思いますが、印象的なシーンがあまりないので、パッと絵にならない感じがあります。どれほど気持ち悪い感じの男の人を想像すべきかわからない、というか。

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