青い春/青春/染色体XY太郎

私達は昔、海の底に住んでいたらしい。
というのも、かつての街は水に沈んでしまったからだ。

私は水上からひょっこりと飛び出た、赤い電波塔の展望台に住んでいる。家族はいない。少し前に、私を育ててくれていたおじいちゃんは死んでしまった。おじいちゃんは死ぬ前まで、一人になってしまう私のことを心配してくれていた。息を引き取った後、私はおじいちゃんの体に、宝物の貝殻や、綺麗なサンゴや、光る真珠で精一杯の装飾をして、海へ流した。それがおじいちゃんの遺言だったからだ。おじいちゃんは安らかな、眠っている様な死に顔でゆらゆらとゆっくりと遠くの方へ波に揺られ、流れていった。私はおじいちゃんが水平線の向こうに見えなくなるまで、じっと眺めていた。おじいちゃんはきっと魚にパクパクと食べられて、骨まで食べられて、海になるのだろう。それはきっとものすごく美しいことにちがいない。
そんな訳で私は今は一人で暮らしている。

今朝起きると、なんだか暖かく久しぶりに日差しも出てていた。きっと春が来たのだ。おじいちゃんが昔は春になると桜が咲いて花見をしたものだと言っていたことを思い出す。今では山も川も海の底だ。私は桜も青葉も紅葉も知らない。でも、雪は知っている。冬は嫌いだ。水面が凍ってしまって、魚を釣るのが難しくなるから。でも、まだ冬は終わったばかり、困るのはもう少し先の話だ。そんな事を考えながらのんびりと釣りをしていると、何かがかかった。これは大きい。うんうん唸りながら引いてみるけれどビクともしない。そして、疲れて手を緩めた拍子に、遂には釣竿が海の中へ投げ出されてしまった。釣竿はおじいちゃんの形見で、一つしか無い大事なものだ。私は釣竿を追いかけて海へ飛び込んだ。

海の中もすっかり暖かくなっていて気持ちがいい。しかし、今は呑気にしている場合では無い。見ると、釣竿はまだ手の届くところにある。私が急いで釣竿を掴むと、私は釣竿と一緒に何処かへ連れ去れていった。おじいちゃんに海は危ないからあまり入らない様にと言われていたので、久しぶりに水中へ入る。水面を見ると、陽の光に照らされてキラキラと青く輝いている。横では大きな鯨が、と言っても小さな鯨なんて見たことは無いのだけれど、ゆらりゆらりと我が物顔で泳いでいる。反対側ではアオリイカの大群が群れをなして泳いでいる。私の頭もあんな形だったら、速く泳げるのだろうか。沈んだビルディングは海藻に包まれていて、その中は、色とりどりの魚たちの住処になっている。と、急にスピードがゆるまった。でも海の中では急に止まれない。私は糸の先へとすーっと進んでいく。糸の先にはイルカがいた。ゴメンねと謝りながら、糸を外して辺りを見ると、思わず私は息を飲んだ。
そこは桜色に包まれていた。サンゴだ。桃色のサンゴが一面に広がっているのだ。そのサンゴは光を反射して海の中は桜色に輝いている。おじいちゃんが言っていた満開の桜はこんな風だったのかもなと思いながら、私は偶然に見つけらたこの風景を愛おしく眺めていた。

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