27の青春、跳躍/青春/縦槍ごめんね

「後、2cm だったんだけどね。」

小学生の頃から 12 年間続けてきた走り幅跳び。最後の大会。私の夢をかけて精一杯の力で地面を蹴った。記録は 5m59cm インターハイ出場まで後 2cm だった。
その最後の大会を機に私はすっかり陸上から足を洗った生活を送っていた。ごく普通の生活を送り、何処にでもいる OL をやっている。ランチには 1200 円から 1500 円くらいの少し良いものを食べ、夜は 1DK のマンションに帰り一人でお酒を飲む。この道を選んだことに対する後悔はない。だけど、あの頃に未練がないといったら嘘になる。
さて、何故いきなり、こんな話になったかというと、路上で私が泣いていたときに、ある女の人が私に話しかけてきた事がきっかけだった。

「私ね、高校時代はね結構、将来を期待されるような選手だったんだ。でもインターハイ予選、結局プレッシャーに負けちゃって、インハイの記録まで 2cm 届かなかったんだ。」

「へー、中々重いお話だこと。」

その女はにやついながら、しかしあまり興味なさげにそう言った。

「それでね、私がなんでね、こんなに泣いているかっていったらね、私さ会社の飲みの席で今まで、話したことなんてなかったんだけど、うっかり高校時代のことしゃべっちゃったの。そしたらその話が広まっちゃって、今ではもう人並べてそこの上を跳ぶなんて宴会芸までさせられんのよ。最近では 9 人くらい跳べるのよ。すごいでしょ。」そんなことを話しながら、また私は訳のわからない涙を流していた。

「それならさ、私が跳ばしてあげるよ。5m61cm。」

その女は唐突にそんなことを言い出した。あまりに突拍子が無さすぎて、どんなに止めようとしても止まらなかった涙が急に止まってしまった。

「1 週間後、神通川の河川敷で待ってるよー。」

そう言い残して、彼女は帰っていった。嵐のような一時だった。それから 2 日間はどうせ冷やかしだと考えて、約束のことなど気にも止めなかったが、約束から 3 日後の仕事を終えて、自然と足は近くの公園に向かっていた。いつ以来だろうしっかりストレッチをして汗を流すのは。それから夜中の秘密特訓は 4 日間続いた。 そして、遂に約束の日。高校の陸上部のジャージに身を包み、私は神通川の河川敷に向かった。

「待ってたよ。さぁ、奇跡でも起こしてみましょうか。」

彼女は私の知らない人間を 5,6 人連れて待っていた。いつ準備したのだろうか。河川敷にはちゃんと走り幅跳びが出来るように掘り起こされ、均された簡易の砂場が作られていた。

「さてと、準備はいい?」
「もちろん。アップも完璧!」
「それは良かった。じゃあいっちょ空まで飛んでいってもらいましょうか。」

彼女がそう言うと、黙って私はスタート位置に着いた。心臓の鼓動が聞こえてくる。しばらく忘れていたこと感覚。ホイッスルがなり全力で走り出した。踏切位置が見えてくる。本能の赴くまま、私は27年間の思いを込めて精一杯の力で地面を蹴った。そのコンマ数秒後、ズシャっと私の体が砂に落下する音が響き渡った。

「記録は…4m32cm」

…当たり前の結果だ。むしろ現役を退いて随分と陸上から離れていたにも関わらず、よくそれだけ跳べたものだと自分を誉めてあげたいくらいだ。

でも、なんでだろう。悔しい。インターハイに進めなかったあの時より、何倍も悔しい。

「どう? 久しぶりに本気になった感想は?」

まだ立ち上がれない私を除きこみながら、そう言った。

「ほんと最悪。何が空まで飛んでいってもらいましょうかよ。全然じゃない…。でもこれが私の精一杯なんだよね。インターハイ予選もあれが私の本当の実力。だからねほんとスッキリした。この年になってまだ夢を見れるなんて思いもしなかったよ。」

「それなら良かった。」

そう言うと、彼女は連れ添いの人々を連れて帰っていった。 本当に夢でも見てるんじゃないかって、そう感じた1日だった。その日の飲み会で私は 10 人を飛び越えていった。

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