花の似合う人/花(はな)/きりん

今日も僕は立野さんに登りに行く。

この世界では、ある日突然てのひらに穴があくことがある。さらに、その穴から吸い込んだものと融合する病気“バイオ・バグ“。バイクを吸い込んだらバイク人間に。蜘蛛を吸い込んだら蜘蛛人間に。分子レベルで結合してしまう。融合がいったん暴走、クラッシュしてしまうと吸い込んだものに寄りすぎて戻れなくなることもある。吸い込んだものを吐き出す解除薬が開発されるまで、勿論世界は大混乱し、多少落ち着いた今だってまるで壊れかけた吊り橋の上みたいに危うい生活を僕たちはおくっている。

そんな生活でも学校はちゃんとある。立野さんは同じ学校のクラスメイトだった。特別華があるわけではないけれど、随分と大人びていて、物静かで、ひっそりと注目を集めるような子だったように思う。長くてまっすぐな黒髪が目立っていた。

僕はたまたま出席番号順の清掃班が一緒で、ちょくちょく話をすることがあった。普段はあまり会話もしないのだが、掃除の時間の間だけ彼女と僕は波長めいたものが合うようだった。なんてことのない会話のなかで、立野さんはたいてい穏やかで、ふとした瞬間にちょっと仄暗い雰囲気をまとっていた。そんな関係はとても薄いものだったけれど、僕も、そして恐らくは彼女も、お互いに親しく思っていたのだ。

そんなある日、立野さんのてのひらに穴が開いた。バイオ・バグだ。三時間目の最中、ふと視線を向けると立野さんが自分の手をみつめて固まっていた。「立野ちゃん?」と、隣の女の子が声をかけても、動かない。「あっ、バグじゃん!!」とその子がすっとんきょな大声をあげ、周りが騒ぎだし、すぐに立野さんは人影で見えなくなった。
その日、立野さんは掃除には来なかった。放課後すぐに市役所へ届け出と講習を済ませにいったらしい。別に珍しいことでもないのだけれど、代理を頼まれたらしい子が楽しそうに話していた。

翌日、週替わりの掃除場所に向かうと立野さんが一番乗りで来ていた。義務はきちんと果たしたい僕と、優等生的立ち位置の立野さんが掃除場所にまっさきに二人揃うのはよくあることだ。今日もまた人気のない廊下で顔を見合わせて苦笑する。
「早いね」「まあね」荷物を置いて、他の面子を待たずにさっさとロッカーから箒を取り出す。
のんびりと箒を動かしながら立野さんがぽつりと訊いてきた。
「竹岡くんって、バグ持ちだっけ?」
「いや?あ、そうか。立野さん、穴あいたんだっけ」まるで自分が穴だらけになったみたいに感じられたのか、僕の返答にちょっと微妙な顔になって立野さんが手をとめる。
「うん、てのひらに」
「柄どんな?見せてもらっても構わない?」
「いいよ」こちらへ差し出された右手をのぞき込む。華奢な手の中央に可憐な花の模様が浮かんでいた。「かわいいね」「ありがとう」
立野さんの笑った顔ははにかむようで、いつも大人びた感じが薄れてかわいらしいと密かに評判だ。似合っていると思う一方、かすかに違和感を感じる。刹那、笑みを消した立野さんからあの仄暗い気配がした。

「でも……私にはこの花じゃないと思わない?」

「もう何か試したの?」
「ううん。まだ迷ってる」
「楽しみにしてるよ」
その日はそこまでで他のクラスメイトやら担当教師やらがきたので会話が途切れた。

立野さんが暴走、バグ・クラッシュしたのは二週間ほど後のことだった。

彼女は何を思ってか、食虫植物を吸い込んだらしかった。随分と巨大化したので、他にも何か吸い込んでいたのかもしれない。
以来、僕は時折彼女に会いに、彼女を登りに行く。

調布市の観光スポット うつぼかずら立野さんトレッキング
ご注意
・立野さんは食虫植物と融合したバイオ・バグです。
・性格はおとなしいですが、その習性上半径 62 メートル以内の移動物体を捕食することがあります。
・身の安全には十分注意してください。なお、捕食されても市当局は一切関与いたしません。

結構人気スポットである。

参考: 『バイオーグ・トリニティ』
http://www.s-manga.net/omf/omf_978-4-08-879580-5.html
http://matome.naver.jp/odai/2139599695912445801

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「花の似合う人/花(はな)/きりん」への2件のフィードバック

  1. おもしろかったです。元となった漫画、読んでみたいと思いました。
    穴が開いたといっても、そこにずっと穴があるわけではなくて、模様になってる感じなんですね。
    その模様が花、最後に立野さんが花(?)になってしまうということで、はなというテーマもうまく盛り込めていると思いました。

  2. 話を崩さずにオマージュができるいい題材が選ばれているだけあって物語。「はな」というテーマもうまく作品の中に織り込めていていいと思います。
    指摘することとしては、「つり橋の上みたいに危うい生活を送っている」割に危機感が薄れている描写が多いことです。前書きの表現を改善すればよいと思います。あと解除薬があるにもかかわらず使われていないということも気になります。
    この文章は立野さんが主人公ではないのですが、立野さん目線での話も見てみたいです。

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