花に嵐の/花(はな)/温帯魚

 

雨が降っていました。道路にできた水たまりは彼らの輪郭だけを映しています。なんで悲しくなったかもわからない少年は、振り向いて走ってきた少女に叫びました。

「さよならだけが人生だって誰かが言ったんだ。ほんとうにそうなんだ。」

傘を持たない少年は、自分が泣いているのかもわかりません。

「いつかこの星は渇ききって壊れてしまって、宇宙もすべてブラックホールに埋め尽くされて、それさえなくなって世界は本当に何もなくなるんだって。だったら、生き物が何かを残すために生きているなんて全然嘘っぱちじゃないか。じゃあ僕たちは何のために生きているっていうんだい。誰かが望んだ永遠はどこで消えてしまったんだい。」

少年は少女といることを望みました。

 

雨が降っていました。少年は雨に濡れて立っています。少女は困ったような顔で、急に家を飛び出した少年に答えました。

「きっと違うと思うの。」

少女は少年が泣いていることを分かっていました。

「この星は終わりの時に、花火みたいに爆発するの。何百、何千という赤色や緑色の光になって、最後に一度だけ自分から輝いていくの。大昔になくなってしまったお花を一つ一つ懐かしむようにいろんな形になって、それをどこか遠くに届けるの。その一瞬はきっと、混じりけのない悲しさで、なによりも澄んだ美しさで、そして、とっても素敵なコトなの。」

少女は少年が好きでした。

 

「あの詩は悲しい詩なんかじゃないの。」

そう言って少女は、花のように笑いました。

「だから、泣かないで。私たちのサヨナラも、きっととっても素敵なものになるから。」

 

 

 

 

雨が降っていました。少年だった彼と少女だった彼女がいます。明りのない彼女の部屋で、彼は独り言のように呟きました。

「きっと僕たちはサヨナラをし損ねたんだ。馬鹿な僕が君を自分のモノのように勘違いして、いつまでも君を手元に置いておこうとしたから。君の気持ちにあの時気付きながら、臆病にも何も君に言わなかったから。そのくせ君の存在に耐えられなくなってしまったんだ。僕は、君が何にもなれなくなってしまいそうな気がしたんだ。言ってしまえばよかったんだ。散ってしまえばよかったんだ。」

彼は少女が好きでした。

「雨に濡れても散らなかった花は、腐ってしまうしかないのに。」

 

雨が降っていました。テーブルには空のグラスが置いてあります。彼女は彼などいないように泣き叫んでいました。

「違うわ。人生はサヨナラなんかじゃない。私の人生はサヨナラなんかじゃない。素敵なサヨナラなんてないことはずっと前から知っていたの。アナタに言わなかっただけ。でもいいの。アナタを愛することしかないの。ずっとそうしてきたから、私はそれ以外知らないの。愛してくれなくていい。そんなことどうでもいい。ただ傍に居させてほしいの。アナタなんて関係ない。そうでもしないと私は何のために生きてきたか分からない。愛してる。だから私からアナタを奪わないで。」

彼女は少年といることを望みました。

「私の人生をサヨナラにしないで。」

 

「あの詩を悲しい詩にしたくないんだ。」

そう言って彼は、嵐のような悲鳴の中で言いました。

「僕たちのサヨナラを、これ以上醜くするのはやめよう。」

 

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「花に嵐の/花(はな)/温帯魚」への1件のフィードバック

  1. 世界観が確立されており、作品内に入っていきやすい。
    淡々と述べられる描写も、その世界観を加速させるもので効果的。
    個人的には言葉の繰り返しに少々くどさを感じた。

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