さようなら/花(はな)/ちきん

世の中にありふれたできごとが、どこか遠くで起こっているとき、何やら正論めいたことや綺麗事を並べたりするけれど、それが近しい誰かのものであれば、その抱える大きさにどろっとした気持ち悪さと疲労感が残る。自分のことだったなら、重くてまっすぐ歩けなくなる。

別れは、何度繰り返しても慣れない。

 

「甘えたいなら、甘えてこいよ。」

眠くて不機嫌そうな顔は、私が何度も愛しみを込めて名前を呼びながら、擦り寄ることを期待している。

それで、漠然とした不安も少しは紛れるのかも知れない。

だけど、甘えるってほんとうは、私にもっとお金を使えとか、行きたい場所に付き合えとかではなく、寂しいときには寄り添ってほしいでもなく、こんな私とその約束とを全体的に許してくださいということでしょう。そんな非合理的なことを「私だから」「あなただから」という、かなり無理のある理由だけで通用させてきた。

ほんとうにほんとうに好きなのに、もう、許し合えなくなってしまった。いつも、関係が深まるほど、好きになればなるほど、なぜか独りよがりになってしまう。

楽しい時間が過去にしかなくて、笑顔一つも見られなくて、相手のことも思いやれず、目を背けたいけど、それはもう「好き」などとは言えないのだろう。

染み付く弱さを隠せなくて、言われるがまま身体を寄せた。

 

でんしゃの窓から入道雲をみた、駅まで車で迎えに来てくれた、絶対にもう、あんなに楽しい夏ってない。

積み重ねた時間や、しがみつく想いが邪魔ものになってしまう。

 

この寝息がずっと隣にあったらいいと願った、子どものような寝顔に、自己愛と性欲ばかりに支配された、くだらない命だなあと思ってしまった。きっと私も、醜い顔をしている。憎んだら、だめだ。

 

「そんなもんか。」

私、弱い人間で、けっきょくまだ、まだというかこの先もずっと、自分が一番可愛いのかも知れない。私、あなたのために生まれてきたんじゃないよ。そんなもんだよ。

 

だけど、どんなに愚かものでも、ぜったいにぜったいに、ふたりとも幸せにならなければ。

迷っていたら、綺麗な思い出まで全部壊れてしまう。

「違う場所でも生きるよ」

ひとりで探しにいくよ。

 


IWiSH 「 flower 」「 flower Ⅱ」

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「さようなら/花(はな)/ちきん」への4件のフィードバック

  1. 一度目はあまり理解できなかったが、二度目に読んだとき胸が痛くなった。主人公、意外と強い。別れの痛々しさがこれでもかと伝わったが、意外とこの主人公、別れに慣れ始めてるかも、と思った。

  2. 時々出会う、WS課題でなければ読んでいないだろうというやつだった。
    表現は上手いので、理解できるが共感は出来ないという不思議な感覚。ただ、「甘えて来いよ」みたいなことを言う人間に好感が持てないので、その点もやはり違う世界のできごとなのだろうなと。

  3. ちきんさんのこの文章の独特な雰囲気は心理描写の巧みさと排除された情景描写にあるのだろうなと、改めて感じさせられた。一度読んだら癖になるので、毎回別グループでも読んでしまうくらいの中毒性があり、尊敬と嫉妬が渦巻いてしまう。元ネタになった歌は知らなかったけれど、よっぽど綺麗でよっぽど悲しい美しいようにも見える思いが込められていて、感覚として覚えたことはない感情がぶわっと広がる思いがした。もう自分とは精神構造が大分大きく違うのだろうとは思うが、一体どこからこんなに苦しく綺麗な思いが湧いてくるのか純粋に興味が湧いて仕方がない。

  4. 自分と同じ歌のオマージュだったが、構成など多くの点で異なっていたので勉強になった。
    元歌の歌詞は調べたら出てきたけど音源が出てこなかったのが残念。ぜひとも聴いてみたい。

    自分は歌の雰囲気を使ったショートストーリーを描いたのだが、ちきんさんのは文章全体が歌詞のようで歌のオマージュをうまく活かしているなと思う。

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