アジサイ大作戦!/はな/エーオー

ぼんぼこ咲いてたあじさいが干からびている。

「うわ、見てよシュン。あじさいこげてるんだけど」

隣で幼なじみのヒナミが言った。

そりゃそうだ。今日もセミが元気に鳴いてる。下手すりゃ人間もこげそうだ。正直、かれたあじさいって不気味。なんかもう茶色くてゾンビみたいだ。

「おお、2人ともお帰り」

あじさいの向こうから飯野さんが顔を出した。

「おじさん、このあじさいどうにかした方がいいよ。かれてる」

おれが言うと飯野さんはうなった。

「そうなんよ、早く取らないと。ただ、数が多いしなあ」

言い訳みたいなことを言ったと思ったら、飯野さんはポンと手を打った。

「そうだ、2人に手伝ってもらおう!」

「めんどくさいからいやでーす」

おれたちは笑いながらダッシュで逃げた。途中でヒナミが三回連続でくしゃみをして、よけいに笑いが止まらなくなった。

「じゃっ、明日は六時に集合ね」

ヒナミは103号室の前で言った。明日は花火大会で、毎年ヒナミ家といっしょに行く。

「あー、あたし花火楽しみ! 遅れんなよ」

「わかってますー」

ヒナミと別れて、おれは階段を上っていった。おれとヒナミはおんなじマンションで、おれの家はヒナミんちの真上にある。ちなみに1階のヒナミの家には庭もある。

ぶえっくしゅ。ろう下からくしゃみが聞こえてきた。

 

 

 

「ひなみちゃん、熱でちゃったんだって」

次の日、昼に買い物から帰ってきた母さんが言った。

「えっ、まじで?」

「さっきひなちゃんのママに会ったのよ。残念だけど、今日はやめとくって」

あちゃー。よりによって今日か。おれはヒナミに屋台の鈴カステラでも買ってってやろうと思った。花火は持って帰れないけど。

「おっ、レモンじゃないか」

父さんが買い物袋から転がったレモンを一個拾った。なぜかおれの手のひらにのっけてくる。

「バーン!!」

おれはびびって飛び上がった。

「はっはっは、梶井基次郎だな」

父さんはキゲンよさそうに笑ってるけど、こっちは鼓膜が破れるところだった。いらっときて言い返す。

「意味不明」

「檸檬って小説があるんだよ。デパートに檸檬を置いてきて、それを爆弾に見立てて爆発するところを想像する話」

わけが分からない。

「レモンが爆発するの?」

「本当にするわけじゃないよ。うーん、例えばあの豆腐が爆弾だとするだろう?」

父さんは、母さんが手のひらで切ろうとしてる豆腐を指さして言った。

「バーン!! はい、母さんは今木っ端みじんになった!」

謎すぎる。っていうかレモンはどこにいったんだろう。

「要するに、爆発するところを想像すればいいんだよ」

父さんはそれから何個か物を爆発させて、最終的に母さんにうるさいと怒られた。まったく、いい年した大人が。おれはもっとまっとうな人間になろうと思った。

 

 

ん? ばくはつ?

 

 

「瞬! どこいくのー?」

母さんの声が追いかけてきた。おれはキッチンに向かってさけぶ。

「ちょっと飯野さんちまで!」

 

 

 

最悪だ。なんでよりによって今日なんだろう。

時計を見る。7時54分。あと6分で花火が始まる。今ごろシュンは屋台でたらふく食べてワクワク花火を見上げてるんだろう。いいなあ。あした自慢してきたら殴ろう。

今日は一日中寝てたし、今はすこしだるいだけだ。でも立とうとしたらふらついた。あーあ、今年は星型の花火がいくつ上がるか数えるつもりだったのに。

「ひなみ、ちょっとリビングに来れる?」

ママに呼ばれてリビングにいくと、座布団とタオルケットで作られたふとんもどきが窓の近くに置かれていた。外を見るように言われたので、あおむけに寝て首だけそっちを向ける。

なんだろう。

 

ドーン!

 

私はびっくりして頭を打った。遠くから花火の音がしたと思ったら、窓の上からなにかふってきた。ドーン。ドーン。丸いボンボンみたいな物体は次々とふってきて、ぱらぱらぱら、と庭でちいさくバウンドした。

目をこらす。あじさいだ。花火の音に合わせてかれたあじさいがふってくる。ちいさな音の時は少ない数、大きい音だとどさどさどさっと大量にふってきた。

思わず笑ってしまった。花が足りなくなったのか、しばらくするとシュンが庭に回収に来た。にやにやしながらそれを抱えていって、そうしてまたあじさいをふらせる。

音が止むまでそれは続いた。私は布団に入って目を閉じる。ドーン、パラパラパラ。まだ耳に残っている。まぶたの裏では、あざやかな丸い花のかたまりがいくつもはじけた。

 

 

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「アジサイ大作戦!/はな/エーオー」への4件のフィードバック

  1. 前半の台詞が中心となるところ、なんだか軽い印象があったのですが、とても素敵な終わり方で、その軽い感じも、瞬とひなみのあどけない関係性を表しているのかなと感じた。中学生の国語の教科書に載ってそう。

  2. 開幕ぼんぼこのインパクト、すごいですね。参考元もわざとらしくない使われ方をしています。梶井基次郎『檸檬』といえば、長らく続いた受験生時代に過去問か模試で見た覚えが。
    文体は児童の視点ということが伝わってくるのですが、やわらかさを感じさせる「ふってきた」と事務的な「回収」の同居などやや狙いすぎな部分も感じます。さらに細かく言えば「キゲン」のみがカタカナで記されており、『逆転裁判』のテキスト風(伝わらないかも)になっているのもなにか代替案を試すべきかもしれません。とはいえ、アイデアの着眼点、雰囲気作りともに見事です。つまりはこの軽さなんだな。

    そういえば9月の終わりに久里浜の花の国へ取材で出かけた際、アジサイが咲いているのを見かけました。春秋の二回花を咲かせる「エンドレスサマー」という種類だそうで、コレもまたなにかに使えそうですね。

  3. 「かれた」ってひらがなで書いてあるのが、なぜか印象に残りました。「枯れたあじさい」と「かれたあじさい」って見た時の印象違う気がします。私は漢字で書く方が言葉の意味が強調されて、ひらがなで書く方が言葉の響きが強調される感じがしました。読んでいて楽しかったです。

  4. 最初から最後までスッキリと読むことができました。
    ヒナミとシュンの書き分けも上手だと思います。特に小学生の時の精神的な成長速度の違いの部分とか。
    書き方の参考にさせていただきたいです。

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