アンパンウーメン/はな/ピーポ

アンパンウーマンは激怒した。
「はぁ?なんでアタシがそんなことしなきゃならないのよ」
ジャムの親父がアンパンウーマンに無茶を言ったからだ。
ジャムの親父は白髪交じりの髪の毛を指にくるくると巻き付けながら言った。
「アンパンウーマンよ、お前の顔を子供たちに差し出すのじゃ。子供たちの腹を満たしてやるのじゃ」と。
アンパンウーマンは激怒した。なぜ自分がそんなことをしなければならないのかわからなかったからだ。
アンパンウーマンは自分の顔が好きだった。しかし、それは決して自己愛からではない。
アンパンウーマンは親父によって作られた。親父は端正な自分の顔をモデルに、端正込めてアンパンウーマンを作った。
自家農場で有機栽培した小麦粉を自分で挽き、そこに毎朝南アルプスまで汲みに行った湧き水を入れ、ドライイーストを混ぜ込み、愛情たっぷりにこねる。
その生地を保温性の高い特別な袋に入れ、一晩中抱きながら眠る。
すると生地は、ジャムの親父の低体温でゆっくりと発酵がすすむ。
ジャムの親父は、毎日あらんばかりの愛情を込め、アンパンウーマンをつくっていたのだ。
アンパンウーマンはそれを知っていた。それゆえ、親父の愛のこもった作品である自分の顔がたまらなく好きだったのだ。
しかし、親父は言った。その顔をガキどもにやれ、と。
たしかに、この街には腹をすかしたガキがたくさんいる。それも人の言葉を話す、ウサギやカバの顔をしたバケモノのガキどもだ。
なぜ、バケモノのガキに、大好きな親父が作ってくれた自分の顔をくれてやらなきゃならないのか。

アンパンウーマンは激怒した。
ジャムの親父は物好きだ。昔、バターだかマーガリンだかいう、犬かどうかもわからないケモノを拾ってきたことがある。
以来、このケモノはパン工場に住みついている。時折、このケモノはジャムの親父の手伝いをして、一緒にパンを作っている。
まったく、汚らわしいケモノにパンをつくらせるなんて、食品衛生法なんてあったもんじゃない。営業停止になっちまえ。
アンパンウーマンはジャムの親父が好きだった。
だからこそ、ジャムの親父がチーズ子とかいう、年齢不詳の女と仲睦まじくしているのが気に入らなかった。
アンパンウーマンは力に自信があった。その力をもって、チーズ子を排除しようと考えたこともあった。
しかし、チーズ子は謎に包まれた女だった。だからアンパンウーマンは迂闊に手が出せなかった。
噂によると、チーズ子はアメリカの裏野球界で活躍した外野手らしかった。
裏野球界では野球賭博が大々的に行われており、そこで活躍するチーズ子の人気は相当なものだったようだった。
しかし、チームメイトといざこざを起こし、相手を半殺しにした結果、チームを追われたと言われている。
そうして露頭に迷っていたチーズ子を、闇市で仕入れをするためたまたまドヤ街を通りかかった物好きのジャムの親父が拾い上げたようだった。
裏野球界上がりのチーズ子の制球力と球速は相当なもので、いつもアンパンウーマンの顔を寸分違わず狙い通りに打ち抜き、新しい顔に交換した。
アンパンウーマンは自分の窮地を救ってくれるチーズ子に、心のどこかで感謝をしていた。それ故、チーズ子に手を出せなかったのだろう。

ある日、ジャムの親父が営業停止になった。やはりバターだかマーガリンだかいうイヌ科らしきケモノを工場に入れていたことがまずかったらしい。
その日から、ジャムの親父はアンパンウーメンをつくれなくなった。
時は奇しくも真夏。猛烈な湿気が日に日にアンパンウーマンの鮮度を低下させていった。
営業停止から1週間後。そこには顔中に青カビを生やしたアンパンウーマンがいた。
アンパンウーマンの鮮度が落ちるのにつられるように、ジャムの親父の病状も悪化していった。
医者からは余命いくばくもないと宣告された。ベッドの上には、頬が痩せこけたジャムの親父がいた。
ジャムの親父はベッドからアンパンウーマンを見上げて息も絶え絶えに言った。
「アンパンウーマンよ、お前の顔を子供たちに差し出すのじゃ。子供たちの腹を満たしてやるのじゃ」と。
ジャムの親父は認知症の末期でもあった。
アンパンウーマンは、弱ったジャムの親父を見て涙を流した。
しかし、素直になれないアンパンウーマンは、嗚咽混じりにこう答えた
「は・・・、な・・・ん・・・で・・・グェツ・・・アタイが・・・オエッ・・・」

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