セーラー服の機関銃/華(はな)/θn

机の上には教科書、筆箱、ノート。それぞれ1つずつ。
チャイムすらなんだか気だるくて、今の私の心象をそっくりそのまま表してるみたい。繰り返される1週間の中で1番嫌いな50分。

私ね、「現代文」って授業のある意味がわからないの。

「国語」の授業って言わなかったのは、古文と漢文は文法やら単語やらみたいな今の日本語とは全く違ってるものを教えるってことで、授業としての形が一応成立してると思うから。もちろん、社会に出てその知識がどう役に立つんだ、とかいう無意味で無粋な意見は放っておいての話なんだけど。

ほら、そう考えると現代文ってわざわざ授業でやる必要あるのかなって思わない?偉い人が選んだ文章を社会の大勢にとって都合よく解釈して、それを生徒に強制するっていう時間。作家たちにも文章にもこんなに失礼なことってないと思うんだけど、みんなそれが正しいことだって信じて疑わない。大人も子供も。大人にも子供にもなりきれない、私たち高校生も。

40過ぎぐらいの女の先生が、淡々と目の前の文章を読み進めてく。最近は夏目漱石の『こころ』やってるんだけどさ。親友の好きな人を奪い取って、その親友を自殺にまで追い込んで、結局自分も恋人を残して死ぬみたいな、そんな話。中学の頃に読んで、なんとなく内容も覚えてる。夏目漱石って本当に文豪然とした文章を書くからそれに圧倒されてうやむやになってるけど、この作品って結構つっこみどころ多いよね。少なくとも私はさっぱりわかんなかった。親友に裏切られるって、好きな人が目の前で他の人間に取られるって、そんなに一大事なのかしら。死にたくなるようなことなのかしら。

「じゃあここでのKの感情を答えてもらいましょう、羽島さん」
「はい」

現代文の先生は、私のことしか指名しない。他の生徒を当ててもちゃんと答えないから、だと思う。私だって全然Kの心情なんかわからないのにな。私だったら絶対にそんなことじゃ死なないもの。でも、答えられる。先生が言って欲しい模範解答が、私の口から生まれてく。何度だっていうけど現代文の授業のこういうところがとっても不毛で、大っ嫌い。

「はい、ありがとう。よく理解していますね」

私が授業で発言するたびにクラスの後ろの方からクスクスと笑い声が聞こえてくる。多分理由は私が「マジメ」だから。授業をちゃーんと聞いてるいい子ちゃんだから。ああもう、本当低能でいやになるの。せめて寝ててくれればいいのに、私を馬鹿にするために起きてるっていうならもういっそ、それはそれでご苦労様ですって思っちゃう。一体これからどうやって生きてくつもりなんだろう。

第一、そもそも見る目がないよね。私ほどこの授業を忌み嫌ってる人間なんていないのに、こんな奴を優等生だ、なんて勘違いしてくれてる。私は教師を馬鹿にする。私は奴らを馬鹿にする。私は教材を馬鹿にする。私は学校を、社会を馬鹿にする。そして私は、そんな自分に酔っていたいの。そんなのがマジメないい子?笑わせないでよ。

私、漱石よりも、太宰の方が好きだなぁ。なんだかかっこいいもの。

チャイムがもう一度鳴って、小さな社会は生まれ変わるように騒がしくなる。揺れる金髪、むせかえるような整髪料と香水の匂い、無防備にさらされた生足。ねえ、黒髪でなにが悪いっていうの?流行に乗っかることでしか社会に参加できない現代人へのプロパガンダなんだけど。レンズの分厚い眼鏡はダサい?そっちの方が世界のありようがよくみえるもんだから。校則に則ったスカート丈は変かしら?いい?この中には魔物が住んでるの。アンタたちをいずれ喰い散らかすであろう魔物が。

もっと大きい社会に出て、彼らはようやく気付くんだわ。この世界を回すのは頭のいい、優等生を偽れる人間だってこと。自分に酔って他者をまっとうな理由で排除できる人間だってこと。だから私、今のうちはどんなに笑われていたって、彼らを苛烈に愛したい。最後に笑うのは私だって知ってるから。

え、女子高生失格?上等よ。

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「セーラー服の機関銃/華(はな)/θn」への3件のフィードバック

  1. このムズムズさせ所とか、人文生の共感を生む感じで読み手の想定も考えるならば良い内容だと思います。ただ、物語的な盛り上がりには欠けるので、そこも上手く構成できたらより面白い文集になったのではないでしょうか。

  2. 恐らく誰もが一度は考えたであろう「これって何の意味があるの」あるあるはやはり共感できるだけあって読んでいて面白いというかニヤけてしまう。自分に酔っている自分にまた酔っている感じも読んでいてゾクゾクした。

  3. まさに機関銃みたいな思い切りのいい言葉遣いで、内容で、すごく高慢ではあるものの好感がもてました。きらきら女子高生を半ば敵視しているせいかもしれませんが。
    そんな心境の代弁をしてもらった気分です。
    彼女がこの先堕落するにしろ、成功するにしろ、行く末が気になります。

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