勿忘草/花/YDK

「付き合った相手には花の名前を一つ教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます。」

誰だこんなことを思いついたやつは、よっぽどの性悪に違いない、なんて行先のない悪態を心の中でつきながら足元に咲く小さく愛らしい花を見やった。

高校生の私はあの頃、初めての恋人に浮足立っていた。「恋人」っていう、甘酸っぱいようなくすぐったいような響きに酔いながら毎日を楽しく過ごしていた。手をつなぐのも、キスするのも、何もかもが初めてで恥ずかしくて、お互いに探り探りの恋愛をしていたように思う。付き合って半年の春、お花見デートをしにそこそこ大きな公園に行った時のことだった。
「見てー!桜だよ、桜!すっごくキレイ……。」
「おお、ちょうど見ごろって感じだな。なぁ、下見てみな?」
「ん?……可愛い!この18年間生きてきて初めて見た!なにこれ!!」
「それは人生損してるぞ~、まぁこの時期はみんな桜だ桜だって上ばっかり見るからな。この花の名前はワスレナグサっていうんだ。勿忘草、漢字で書くと忘れる事勿れ、って書く。」

あの頃の私は、恋に遊びにって、ほかの雑学とか知識とかを吸収するなんて微塵も考えてなかったから彼がすごくかっこよく見えて、また一段と好きになった。そうやって順調に二人の仲は深まっていったはずなのに、近づけば近づくほど逆にすれ違うことも増えていっていつの間にか心の距離が開いてしまった。恋愛って不思議だなって思う、お互いに好きでもうまくいかないことがあるんだから。そんなわけで私の青春の甘く苦いひと時は終わりを迎えた。それからは、失恋の傷をいやすように勉強に気持ちがシフトして、無事国公立の大学に進学して中堅会社に就職して今に至っている。もちろんその間にもたくさんの恋をしてきた。大学ではサークル内での恋愛のいざこざにも巻き込まれたし、社会人になってやさぐれているときには、ただ寂しさを埋めるためだけの短い恋愛をしたりもした。まぁそんなわけである程度は恋の酸いも甘いも知ったつもりではいるのだけど……、

「お待たせ、待った?」
「ううん、今来たところだから。」
「それならよかった、行こうか。」

彼は私の手をサラッととって、私もそれに自然に応える。はたから見ると、まぁいわゆる恋人同士なんだろうな、と漠然と思う。そこに不満があるわけではないけれど、地面に儚げに咲く青い花を見るとあの頃の幼くてがむしゃらで、だけど繊細な恋愛がすごくまぶしく思えて仕方がない。あの頃の私たちは確かに輝いていた。それに、なんだかんだ昔の不器用だけど一生懸命な彼への片思いが続いているのかもしれない。ほんと、ある意味で最高だけど最悪な記憶を植え付けられてしまった。もうどんなに焦がれてもあの頃のような恋愛はできないのに、あいつのせいであの頃の気持ちを忘れることができない。私はこれからも、毎年春が来るたびに思い出して、なんとなくやりきれない思いをするのだろうか。

勿忘草。文字通り私は一生お前のことを忘れられそうにない。コノヤロ―――!!

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「勿忘草/花/YDK」への5件のフィードバック

  1. 大人になってからの私の部分、すごく共感できるというか、すごくよくある女子像という感じで、いいと思いました。その分、勿忘草を言ってくる高校生男子なんているかー??という気分になりました。

  2. 昔の恋をほろ苦い思い出にしつつも、結局いまを大切に生きることができる。こと恋愛に関しては、女性よりも男性の方が未練を抱えやすいようです(参考: 新海誠『秒速5センチメートル』ほか多数)。
    レイアウトに関しては、スマートフォンから見ると「お待たせ、待った?」をサンドする二つの段落が非常に読みづらく、工夫の余地ありです。感情のほとばしりは伝わりますが、読んでもらえないことには始まりません。
    僕はPCから閲覧しているので特に不自由は感じませんでしたが、人により閲覧環境は様々なので配慮すべきでしょう。

    また、最後の「コノヤロー」は個人的に締めとして不適当なように思えました。もう少し大人しめでもいいかもです。昨年度のスタジオⅠで似た文体を書くメンバーがいたのでそれを参考にできればと思ったのですが、さきのスタジオブログ抹消事件によって過去の課題たちは皆消えてしまったのが悔やまれます。

  3. お花見デートの場面の会話が、少しぎこちなく感じました。
    でも逆にこれがデートの高揚感とか緊張感なのか⁉とか思ったりもしました。デートする機会が無い私にとっては、すべて想像の世界ですが…お花見デートいいですね。

  4. 形式的な面から。
    「」を使う会話文などの際に、カッコが閉じられる前に句読点を置かないことをお勧めします。それから閉じカッコ前以外で「!」や「?」を使う際には、その後に1マス開けると読みやすいです。
    例:「見てー!桜だよ、桜!すっごくキレイ……。」
              ↓
      「見てー! 桜だよ、桜! すっごくキレイ……」

    冒頭のセリフが本文中のどこで生かされているのか自分にはわからなかったです。生かされているのだとしたら読解力のない自分のミスです。インパクトが強い文だと思うので、そこをもっとつなげて書けるとよくなるのかなと思います。

    全体としてみると過去の出来事を振り返りながらの今の状況が、わかりやすく書けていると思いました。

  5. こういう言葉・格言みたいなのを引用するときって、その引用した言葉の魅力=作品の良さ、むしろその言葉に頼ってのっかるだけにもなりかねなくて、自分のアイデアと相乗効果にするのはなかなか難しそうだと思った。
    心理描写が繊細だった。ただ、勿忘草で思い出すのはあのころの自分の気持ちで、彼が好きだとしてしまうのはその思い出が綺麗だからではないかとちょっとひねくれたことを思ってしまう。まあ人と思い出は不可分だとは思うのだが。
    最後、今思いついたやつだけど、一緒にいる相手に咲いてる花の名前を「あれはね」って感じで教えようとするシーンで終わってもいいのかなと。

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