宿敵/花/峠野颯太

郊外に建つ、朱色の屋根の一軒家。その一室からけたたましく鳴り響く目覚まし時計。隣の部屋の弟に騒々しいと文句を言われるほど、その音量は相当なものなのだが、時計の主はなかなか目を覚まさない。
今朝は3度目のアラーム音の後、
「あああぁぁぁぁ!!!!」
と、彼女の虚しくも自業自得な叫び声が響いたのだった。

「姉ちゃんさぁ、何であの爆音で起きねえの?耳腐ってんじゃねえの?」
サロペットを着ながら嵐のごとくリビングにやってきた姉に向かって、大きな溜息をつくように弟が言う。
「は!?なんか言った!?今あんたと話してる暇なんてないの!………ちょっと、お母さん!?私の帽子どこやったの!?」
「はぁ?ソファの上に置いてあるでしょ?あんたが昨日放ったらかしにしてたから、私が分かりやすいように置いと…」
「あーはいはい!ありました!!」
洗面所から聞こえる母の説教じみた文句を遮るように姉は言い放つ。そして立ったまま右手で食卓の上のウインナーをつかみ、口に運ぶ。
それを見た弟が、ゴミを見るような目を姉に向け、ボソッと言った。
「本当にそれで俺より年上なのかよ…そりゃあ結婚も逃すわけだ」
「うるさいな!関係ないでしょ!!」
聞き逃すことのなかった姉は、キッと弟を睨みつけて、刺々しく反論する。
「ていうか、俺と話してる暇ねえんだろ、早く行けよ。もう7時半過ぎてんぞ」
「うっわ、ほんとだ!33分じゃん!やばい、本当に遅刻しちゃう!!おじさんにまた呆れられる!!」
バタバタと準備を再開する姉は、ものの1分後、扉が閉まる音と、行ってきますという声を残して出かけて行った。その途端、家の中は台風一過のごとく、しんと静まり返った。

決して穏やかとは言えないが、それでも平和な朝だった。

それが、ずっと続くと思っていた。
この一家だけでなく、この世界のすべての生きとし生けるものが、今日と同じように明日が来ると思っていた。




しかし、その常識はある者の到来によって覆されてしまったのだ。
昔より遥かに強くなった彼は、たった1日にして世を崩壊させた。俗に言う世界征服を、彼は実現させたのだった。






高らかに笑う彼は、かつては花畑だった更地にただ1人立っていた。そこで、いつもならもっと前に来るはずであろう、1人の男を待っていたのだ。だが、待てども待てどもその男は来ない。彼は、なんとも言えない寂しさと悲しみに襲われた。世界征服をし、すべてを手に入れたというのに。

そこに、青いサロペットに白いシャツ、白い帽子を被った女が、真っ青な顔をして走ってきた。
「もう……やめて……!!あなたのせいで……!!もう……ッ」
彼女は走った勢いのまま彼の腕にしがみついた。彼はその勢いでなく、彼女の言葉に目を丸くして、彼女に尋ねた。
「まさか……奴は……」
女はしがみつく力を緩め、男の目を見て消え入るような声で答えた。
「……もう、ここには……」

彼は、その言葉に撃ち抜かれたように動かなくなった。そして、その場にしゃがみ込み、空をぼうっと見上げた。そのうち乾いた笑いが込み上げてきて、次第に止まらなくなった。

自分の夢は、世界征服なんかではなかった。少し悪さを仕掛けて、それで彼と戦うこと、それこそが自分の生きがいであった。

何より、彼が自分にとって必要な存在だった。




「なあ、戻ってこいよ。そんでさ、俺様がやることにいちいち正義振りかざしてこいよ。なあ、見ろよ。お前が止めないから、全部俺様のものになっちまったぞ」
空に向かって語りかける彼を見て、女はたまらず泣き始める。
「この場所だって、お前が一生懸命守った、奇跡の花が咲く花畑だろ?そう、俺様とお前が最後に会った場所だよ。お前のパンチ意外に痛くてさあ。すぐ飛んでっちゃって…。なあ、また俺様を殴って、星にしてくれよ。お前が星になってどうすんだよ?それは俺様の役目だろ…」
彼の目に溜まった涙は、重力に耐えきれずにまっすぐ零れ落ちた。乾き切った地面に、彼の涙が染み込む。すると、そこから一つの芽が顔を出したのだが、彼はそれに気づくことなく涙を流し続ける。




その芽がものの数分後に花を咲かせた、その時だった。
「そこまでだ!」
どこからともなく聞こえたその声に、彼は驚いたものの、反射的に涙を手で拭う。そして、不敵な笑みを浮かべながら、かつてのように、台詞を言い放った。





「ハ〜ヒフ〜ヘホ〜!!……ようやく来たか、アンパンマン!!」

元ネタ:「それゆけ!アンパンマン」

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「宿敵/花/峠野颯太」への3件のフィードバック

  1. 途中までなんの話か全くわからなかったので、最後にはなるほどなとスッキリしましたね。女というのはバタコさんでしょうか?途中、気になったのはアンパンマンがなぜいなくなったのか、そしてなんで復活したのかがよくわかりませんでした。バイキンマンの様子からするとバイキンマンが倒したわけでもなさそうですし。

  2. 話がわかりづらく、難しかった。話の一部だから、想像しずらいのかなと思った。ネズミくんはわかったそうなので、説明してほしい。たぶんわたしに理解力がないのだと思う…
    すっきりしたら楽しいのだと思います!

  3. 最初読んだ段階だと、はっきりしませんでしたが、元ネタを知ってから読んでみると、なるほどとなって、とても面白いと思いました。世界が崩壊したから、アンパンマンの工場もなくなったためにアンパンマンがいなくなったのかなと思っていたのですが、出てきたんで、その間アンパンマンはどこにいっていたのかなというのが、やはり気になるところでした。

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