恋と呼ぶには気持ち悪い/はな/やきさば

     恋と呼ぶには気持ち悪い。

     最近変な人に付きまとわれている。というか、求愛されている、たぶん。しかもこんな地味なオタク女子高生に対して、向こうは社会的に圧倒的勝ち組の、高スペックのイケメンサラリーマン。今までその整った顔でどれほどの女性を泣かせてきたのか、考えると恐ろしいほどだ。そんな人に求愛行動をされているなんて、自分でこんなこと言ったら勘違いの痛い女だと思われるかもしれないけど、誰が見たってそうなのだ。なんてったって、その変な人の妹、あ、わたしの親友なのだけど、彼女のお墨付きだし。

     出会いはいつだっただろう。一か月か二か月くらい前だろうか。わたしの親友、莉緒のおうちにお邪魔したときに偶然出会ったのが最初だった。「あ、これわたしのお兄ちゃん」と莉緒に紹介されて、こんなイケメンが…!やっぱ美人兄妹なんだな……!と感動しながら「どうも、有馬一花(あありまいちか)です…」と挨拶した瞬間、「い、いちかさん…!」と両肩をがしっとつかまれた。え?初対面ですよね…私たち?と、あまりの驚きに鳥肌が立ったのは言うまでもない。どうやらひとめぼれだったそうだ。なんでだよ…。それからというものの、莉緒のお兄さん、改め天草亮(あまくさりょう)さんは、わたしにストーカーレベルで付きまとってくる。普通ならこんなこんな素晴らしい男性に好かれるなんて大変喜ばしいことなのだが、彼のストーカーレベルで変態じみた行動がわたしをそうさせなくしているのだ。わたしの平和な生活は一気に彼に乱されていった。

     一番の変化は、毎日わたしの家に一輪の花が贈られてくるようになったことだろうか。はじめは奇妙だなと気持ち悪がっていたのだが、贈り主がお兄さんだと聞いて納得した。あの人ならやりかねないな…と。「なんでいつも一本だけなんだろ?」と近くにいた母親になんとなく尋ねてみると「あなたの名前じゃない」と言われて、初めて気がついた。そういうことか…!ひえ〜〜〜〜〜〜〜!!と改めてお兄さん自身の愛?なるもの?に脱帽してしまう。うーん、さすが社会的勝ち組イケメンサラリーマン。やることが違うなあ……って感心してる場合じゃない。

     莉緒によると、お兄さん自身もわたしと出会って生活は一変したらしい。わたしと出会ってから、今まで関係を持っていた複数人の女たちとは完全に連絡を断ち切って、それはそれは健全で真面目になったそうな。まあ、わたしからしたらどうでもいいことなんだけれど。困ったことに、莉緒と同じ高校、同じクラスのわたしの生活リズムは全てお兄さんに筒抜けで、わたし達がテスト週間で帰りが早い時なんかは学校の門の前で待ち伏せしてたりもする。仕事はどうしたよ…仕事は……!!と、突っ込みを入れたくなるのは毎度のことである。「学校お疲れ様です、一花さん」と、世の女子が見れば黄色い歓声を上げるような爽やかな笑顔でさらっと隣に並んでくるお兄さんに、「どうも…」ととりあえず愛想笑いを浮かべる。正直、親友のお兄さんだから、思いっきり邪険にできないのが辛いところだ。

     ある夜、たまたまわたしの帰りが遅くなったときのことだった。出会ってから時々、お兄さんから電話がかかってくるようになっていたのだが、今日がその日だったのか、夜道を歩いているとお兄さんから電話がかかってきた。渋々電話に出ると、開口一番「今どこにいますか?向かいます」と言われ場所を伝えるとその5分後に本当に来た。救急車かよ……!と心の中で突っ込んでから、どうしていきなり?と理由を尋ねると「一花さん、いつも5コール以上しないと絶対にでてくれないのに、今日は2コール目ででてくださったので、夜道を一人で歩いていて、不安だったのではないかと」と、返事がきた。え……と思っていたら今度は頭の上で鼻をすんすんする音が聞こえる。「あ〜一花さん、今日もいい匂いがします」

     やっぱり、恋と呼ぶには気持ち悪い。

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