死神なあの娘と村人C/はな/Gioru

「んん、この肉が腐ったようなにおいは……。まさしく死体の匂い!」

「植物園に死体があってたまるか。こいつはラフレシアだよ」

 

世の中には二種類の人間がいる。

 

個性者であるか、そうでないかだ。

 

個性者は世界のごく一部の人間であり、総じてファンタジーに出てくる職業のような名前の個性を持って生まれる。また、先天的なものであり非個性者、または村人と呼ばれる存在である一般人が後天的に個性者になることはあり得ない。

 

個性には様々な種類が存在し、ファンタジーの代表格というべき勇者や魔王というものからロボットというファンタジーなのかよくわからなくなるものまである。

個性者は本人の個性に見合った行動をしようと心がけ、世界はそれを許容する。ただ、現実世界では目からビームがでるようなことはなく、個性者だけが就職できる世界でのみ、その個性に応じた能力を得られるのだとか。

 

さて、村人である俺が今話しているのが死神の個性者である。

彼女曰く、死神とは現世を離れそうな、あるいは彷徨っている魂をあの世へと送っていく役目であるらしい。そのために、死神は死にそうな人の匂いがわかり、迷える魂の匂いをかぎ分ける鼻を持つのだとか。

もちろん、現実世界ではそんなことできるはずもないので、他の人より鼻が良いだけにとどまっている。

そんな彼女は、それでは駄目だと思っているらしく、鼻を良くする訓練として目隠しをして街中を歩き回り、匂いから判断したものを言い、それが正解しているのかを俺に尋ねているのである。

 

いくら訓練のためとはいえ、目隠しをした状態であちらこちら歩き回られるのだから、それについていくこちらの身にもなってほしい。車に轢かれそうになったりだとか、川に向かって一直線に進もうとしたりだとか、俺の心臓がいくつあっても足りない。

「ちぇー、またはずれかー」

目隠しを外してラフレシアをのぞき込む彼女。

そんなに顔を近づけたら、鼻がひん曲がりそうなのだが。

「あー、でも腐った匂いだけじゃないのかな。それに、やっぱり人のとは違うみたい」

「死んだ人の匂いを嗅いだことがあるのか?」

「霊安室とかに入れさせてもらったこともあるからね。なんていうか、匂いだけでも雰囲気が違うというか。さっきのは早計だったなー」

個性者たちは本人たちの個性を全うするためにその行動に迷いがない。俺は何だか嫌な気持ちになるのを抑えられなかった。自分のために人の死体の匂いを嗅ぎに行くなんて、俺には想像もつかない。

 

その後、何の変哲もない会話をしながら植物園を出た時に、彼女が突然走りだした。

また個性の発露か! と思った俺であるが、どうやら違ったみたいだ。横断歩道を渡ろうとしている年をだいぶ取ったように見える男性の荷物を持ってあげて一緒に渡ろうとしているみたいだ。慌てて俺も駆け寄り男性を支える。顔がほかの人よりも、やけに黄色っぽい男性のような気がする。

なんとか信号が変わりきる前に渡り切り、男性に笑顔でお礼を言われ、それにこちらも笑顔を返して俺たちは駅に向かって歩き始める。人助けはやはりいいものだ。ちょっとした幸福感に包まれていると、不意に後ろに引っ張られるような気配を感じる。シャツの裾を握っていたのは彼女であった。

 

「あの人、近いうちにたぶん死んじゃう。匂いがそう言っていた」

咄嗟に振り向いた。そんなことないだろ、あんなに元気そうだったのに。それに、ここは現実の世界なんだ。おまえらの世界とは違う。超能力なんて存在しない。少しは振り回される俺らのことも考えてくれ。

そう言おうとして、俺は言葉にできなかった。あまりに悲痛そうな顔で、何かをじっとこらえているようだったのだ。

 

「死神は魂を迷わないように、あの世へ運んであげる人。死者は救うけど、生者は救えないのかな」

彼女はポツリとつぶやいた。
あぁ、俺はなんて馬鹿なんだ。個性者だって人間だ。いつの間にか俺とは違う何かの生き物として彼女を扱っていた自分自身にひどく苛立ちを覚える。

自身が思う常識から外れた人間を異端者として蔑み、俺たちが正しいのだと心の中だけで思う。そんな人間こそ吐き気のしそうな匂いが鼻に飛び込んできそうだ。

 

「君の匂いは優しいね、不思議だよ」

彼女はさっきまでの表情を消して、ニコッと向日葵の花のような笑顔を俺に向けると前を向いて歩きだしていった。

 

俺は今どんな表情をしているのかな。


 

元ネタ:『魔王なあの娘と村人A』

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「死神なあの娘と村人C/はな/Gioru」への3件のフィードバック

  1. 「オマージュ」という言葉の正確な意味を知ろうと今回調べてみたのですが、それによればフランス語で「尊敬」を指す言葉からきているのだとか。最近の言葉で言えば「リスペクト」ですね。

    さて、無駄話は置いておいて、タイトルを見た際「ん?やる夫スレかな?」と思ったのですが参考元はラノベでしたね。設定をモロに引き継いでいるのかはわかりませんが、いわゆる同人、二次創作のように感じました。決してこれは悪い意味で言っているのではなく、正直な感想です。
    その上で、SSにしては台詞の分量が少ないように思われます。とくに主人公の独白は冗長で、僕はそうやって自意識が前面に出たものが多いという理由でライトノベルは避けています。
    あまりに地の文が多いと2chであれば支援レスがつかず、連投規制を喰らうことでしょう(経験談)。
    主人公はラノベにありがちなやれやれ系でよく書けています。僕はこういう主人公嫌いですが。

  2. 彼女の悲しげな描写、もう少し強い印象を与えられたらよいのになと思った。「匂い」が話の軸になるため、十分テーマである「はな(鼻)」は使っているかなーと思ったので、最後の「向日葵のような笑顔」とかなくてもいいんじゃないかなと思った。読んだ感じ、彼女はそんな向日葵と比喩されるような明るい快活な印象を受けなかった。

  3. 世界設定の説明を、植物園にいる周りの人を描写する形で入れてもいいのかなと思ったが、文字数的に壮大なことになりそうだ。説明的な文章を入れるのはこういう設定に慣れている人でないと把握しきれないとは思う。二次創作だからこそこういう方法は通用するのだけど。
    毎度ながら構成は見事で読みやすい。ただ、やはりエピソードがありきたりなところに落ち着いてしまっているという印象。個性という言葉をむやみに使いたいわけではないけど、二時創作の中でも、これはただ読んで終わりになってしまうのではないかな。爪痕を残す! という気持ちがあってもいいのではと私は思ってしまう。

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