戻る/はな/フチ子

君はぼくのものだから。

そんな言葉で君を苦しめていたらしい。

 

ぼくと君の間に生まれた信頼関係はそう簡単には崩れ去れないだろうと、口うるさく注文を付けては、叱った。叩いた。うまく乗っかるように、何度も何度も鞭を打った。

 

でも君は確かにぼくよりも強く、タフで、たくましいはずだった。端からぼくに勝算などなく、この部屋は、君にとって小さすぎていた。君はいつだってこの赤いロープを蹴散らせて、向こうの世界に飛び立つことができたはずだ。

 

それなのに君は孤独に震えて、とどまっていた。

 

その孤独は、コンプレックスのせいなんかじゃない。鼻や耳の形が違うからなどと問題にはならない。君の鼻や耳の形はとっても魅力的で、卑下することなんてなくて、「きみだけ」の特別であったはずだ。

 

ぼくによって心まで躾けられた、悲しみの記憶を持った君を、美しいと、そして滑稽だと、感じながら見ていた。本当は君に出来ないことなどないことは知っていたし、君を縛りつくすなどできるはずがなかったのに。傷跡を隠しながら微笑む姿に、君のやさしさに、ぼくは甘えてきたのだ。

 

 

びくびくしながらも「叶えられる」と信じて、希望を見出して何とか立ち上がった姿を見たときは、傍観者にしかなれず、ただただ興奮した。閉ざされた心のドアを内側から壊しにかかった、君の底力はやはり、強かった。ぼくは、自由を欲しがる君の声に最後まで気づけないままに踏み倒されて、涙が込み上げてきた。痛みをわかってやれなかったぼくの方が今度、ひとりになったのだと、思い知らされた。

 

それでも、やがて君は絶望するだろう。外の世界のほとんどは君の強さ、大きさ、スピードなど色々な面で相手にならない。君には簡単になぎ倒す力がある。君と対等に競り合う相手などいない。いや、ライオンにはくれぐれも気をつけてほしいが、きっと君なら平気だろう。地球を一周でもしたら、どこまでも均一化された世界に飽きてしまって、またもや淵に追いやられる。鞭打たれていたころが、より刺激的で、あたたかかっただろう?

 

10年後にはもっと綺麗になって、ここへ戻って来るはずだ。自分らしさを手にしつつも、ぼくに玉の上に乗せられていた方が、そして見世物にさせられていた方が救われるのだと半ば諦めて。長い美しい鼻を愛でられるこの空間が恋しくなるのだ。サーカステントは古びれてしまっているかもしれないが、これがきっと君にとっての「幸せ」であるはずだから。

 

元ネタ:関ジャニ∞『象』

http://sp.uta-net.com/search/kashi.php?TID=173592

 

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「戻る/はな/フチ子」への3件のフィードバック

  1. 僕も最初、自分の好きな曲について書こうと思ったのですが、歌詞をなぞっていくだけで結局は歌詞となんにも変わらない文章しか書けないと思ってやめました。その点、ライオンという新しい登場人物をだしたり、オリジナリティがあったりするのはさすがだと思いました。

  2. なるほど、歌詞で書くという手もあったのか!と驚きました。オリジナルの方は、その足で踏み出せ!世界は変わる!って感じで前向きな感じなのに、その世界に打ちひしがれた者が結局また同じ場に戻ってくる、という少し絶望感に満ちた世界観になっていて面白かったです。フチ子さんの文章ってなんで毎回絶望感や倦怠感のある文章になるのでしょう?思いっきり明るい文章読んでみたいな、なんて。

  3. オリジナルの歌詞を読んでから、読んだのですが、全く逆の展開になって、ちょっと驚きましたが面白かったです。
    今いる、従属している世界が最も幸せという、感傷的というか、絶望的なところがとりわけ印象的でした。個人的にすごい好きです。象と人間を男女に置き換えてみたら、すごい痛切だなあと呼んでいて思いました。

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