たくさんの中のひとつ/初恋/フチ子


「おまえが来るから、あいつ、来ないって」

そう告げる彼のことも、好きだった。わたしが劣等感でいっぱいになって、教室から飛び出てしまおうかと思っていたときに、「字、上手いよな」とつぶやいてくれた。全然、上手くないのに。この字だって、お友達の真似であるのに。のっそりした、おおらかな感じがとっても魅力的だった。何かとロッペンの真似をしたり、少し、本質を見抜けないズレた感覚の持ち主だったけれど。

 

魅力的な人はたくさんいた。小学校の6年2組にいた先輩は、単純に顔が素敵だったし、走るのも速かった。バスケをしてるところが格好よくて、とにかく仲良くなりたくて、先輩の家の前でなわとびしながら、先輩の自主練を眺めていた。クラスが一緒だったずっと寝ているネコみたいな人は、いつもぼーっとしているのに、体育の時間はキラキラしていた。たぶん、この人とは両思いだったと思う。

毎回毎回、こんな好きになったのははじめてだ!と恋に感動して、朝起きるモチベーションになった。ノリノリでアピールを繰り返し、告白なんてしなくても、わたしが誰を好きなのかを周りのみんなが知っていた。好きなものは好きだし、行動に好意が見え見えになってしまうのはどうしたって防げない。

塾では一番上のクラスだった。その中でわたしは一番出来が悪く、期待されていなかった。模試の度にクラス落ちの危機に晒されたが、先生のお気に入りだったこと、わたしがギリギリボーダーな成績をとることが得意だったことが重なって結局最後まで居座った。

8人くらいの少人数、そのうち女子はクラスで一番の秀才と劣等生の2人。秀才ちゃんは性格もとってもよくて、どんなにわたしがダメダメでも、助けてくれた。そんな秀才ちゃんが好きだったのが、わたしのことを今でも嫌う、あいつだった。

わたしはいくつか嘘をついていた。都合のいいことに、どんな嘘をついたかは忘れてしまったが、自分を誇示する汚い嘘だ。明らかに力の差がある人たちに囲まれて、自分が情けなくて、でもその人たちが大好きで、一緒の土俵にいたくて。勉強以外の特技を、最初は少しだけ、それがどんどん過剰に、話を大きくしてしまった。

たぶんみんな、頭が良かったから気づいていたと思う。わたしが嘘をついていることも、嘘がやめられないことも、嘘をつく理由も。それでもみんなはわたしを仲にいれてくれていて、嬉しくて、苦しかった。

「おまえ、もう嘘つくなよ」

だから、あいつにこう言われるまで、わたしは止められなかった。そのときわたしは、恥ずかしくて、爆発して粉々になりたい気分だったけれど、同時に重たいものも吹き飛ばされた。ずっと、あいつが懐疑的な目を向けていたのは気づいていた。怖くて、大嫌いで、冷酷で、苦手だった。秀才ちゃんが好きだというから、応援していたけれど、それでもなんだか嫌だった。

 

「まだわたしのことを嫌うんだね〜そろそろ許してくれてもいいのに」

ロッペンは7年間たった今も、のほほんとしている。際どく、図々しいことをサラッと言えるくらい、空気がゆっくりとしている。

「なんであんなに拒絶するんだよ〜」

わざわざわかってる理由を聞いてみる。ダサいなあ、自分、と思いながら。

「どうでもいいことを曲げないからって、言ってたよ」

やっぱり、あいつはなんだかんだ優しいのか、単に理由も上手く言えないほどの嫌悪感なのか。どうでもいい理由で、核心をついていないあたり、私の気持ちもふわふわと浮遊する。

唯一、本人にも周りにも明かすことのなかった、嫌いだけど好きで、消化できない感情を思い出して、そんなこともあったな、と懐かしくなった。

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「たくさんの中のひとつ/初恋/フチ子」への3件のフィードバック

  1. 冒頭の状況設定がよく把握できなかったので頭でうまく整理できなかった気がする。また、嫌いなのに好きという感情は男としてはよく理解できないものではあったものの、どこかもどかしい文章はとても恋っぽい感じが出ていて良かったと思う。でも結局、初恋の相手はロッペンだったのか先輩だったのかどうかが曖昧で分からずじまいだったけど、恐らくロッペンだったのかな。ロッペンという名前が強烈すぎて何故か常にロッベンが脳内再生されてしまった。

  2. 初恋という印象は持てなかったです。
    ロッペンさん?のことも少しわかりにくいように思いました。最初のあたりで優しかったり、でも嫌われてる、という記述があったり、人柄が掴みにくかったのと、
    少しぼかされたような書き方になっていたためでしょうか。
    そのかわり、主人公の心情はすごく読みやすかったです。説明もくどくないし、かといってあっさりしているわけでもなく。

    1. 本当にごめんなさい、わかりづらすぎますよね!笑
      ロッペンと「あいつ」は異なります。ロッペンと「あいつ」の話をしています。好きになった登場人物は、ロッペン、あいつ、先輩、ネコみたいな同級生の四人います。同時代的にみんな好きになったので選べず。全部出して混沌とさせたかったのですが力不足でした。
      今日この弁明ができる時間があるか謎なので、コメントで失礼します。

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