楽しかった時間は忘れた/初恋/ちきん

ほんとうにすきだったひとは、どんなに時間がたっても、自分も相手も思い出の場所も全部変わってしまったとしても、たぶんずっと好きなのだろう。いや、「好き」というのとは少しちがうかも知れない。自分との関係の中での愛情や独占欲はなくしてしまうけど、ただ根拠もなく特別であり続けたり、無責任に幸せになってほしいなどと願ったりする。

だから、初恋のひとが傷ついているのを、放っておけなかった。

 

 

「いまからちょっとだけ電話していい?」

メールアドレスで、すぐにあのひとだと気が付いて、焦った。俄かには信じられない、2年ぶりに連絡がついた瞬間だった。アドレス変更を知らせてくれなかったくせに、私の番号は残っているらしい。そんなことより、匿名に謎の敬語でコメントしたのに、私だってバレていたのか。だってそれ以外に、突然連絡してくるような用事なんてないから。最初から、こうなることを期待していたような気がしてきて、恥ずかしい。

予想していなかったことが起こったとき、今こうなっているのが不思議だとかカオスだとか、ネタとしては言うけれど、ほんとうはそれほど動揺していないし、必然であるかのように受け止められる。それは、ある程度いろいろな経験を積んできたからかも知れない。初めて電話をした日、携帯を開きっぱなしにしたまま着信が来るのを待ち、通話ボタンを押すのにものすごく緊張したことを思い出す。きっともう、すきなひとがベランダから手を振ってくれただけで、飛び跳ねたり、日記に記したりするくらい、喜んだりできない。ちいさな幸せがひとつひとつ積み重なっていく毎に、望んでもいないのに貪欲になってしまうことを知っている。すぐに返信をして、今はもうほら、落ち着いて電話が来るのを待つことができる。

 

 

「俺、独占欲強いからさ、そういうところがほんとうに許せなくて別れた。」

「そっか。詳しく知ってるわけじゃないけど、いままでになく夢中だったように見えたから、少し心配してた。実は私も、先月終わっちゃったばっかりなんだ。だから勝手に仲間だ!って思ってコメントしたの。なんで私だってわかったの?」

慰めるつもりで電話に出たのに、どうしても自分のことに引き寄せてしまうから、嫌になる。誰と誰が付き合ったとか別れただとか、ほんとうにありふれた、どうでもいいことなのに、はじめて自分の身に降りかかる重さを知った。きっと同じ痛みだ。今この瞬間におなじきもちでいられるのは、私しかいないよ。人の心配をできるほどの余裕もないのに、この偶然のタイミングにさえ、無理矢理何らかの意味を見出してしまうから、愚かだ。

 

 

「つらくても寂しくても、ピアスとかたばことか、やり過ぎたらだめだからね。」

「そうだね。まゆもね。」

 

 

すき「だった」ひとには、何も期待してはいけない。

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「楽しかった時間は忘れた/初恋/ちきん」への2件のフィードバック

  1. 自分自身の感覚を感じるままに書き連ねていく文章は純文学的でいいと感じました。
    しかし、申し訳ないのですが(文章が悪いというつもりは全くありませんが)自分にはその感覚的部分がどのように展開しているのかつかむことが出来なかったので、これ以上のコメントは控えておきます。

  2. これあれですかね、僕の恋愛経験が皆無だからですかね。内面描写が殆どを占める文章だけど正直何が起きてそう思ったかが分からなくて共感が皆無になったまま読み終えてしまいました。女の子が読む分には面白いのかも。もし僕みたいな人間にも届けるなら、より状況描写に拘ればいいのかな。と思います。

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