恋じゃなかったと信じたい/初恋/θn

「初恋は叶わない」
 割と当然のように言われているけれど、このジンクスを最初に考えた人はなかなか罪深いし性格が悪い。私はそのせいで初恋というものに対して結構な恐怖を抱いて幼少期を過ごした。自分も必ず叶わない恋とやらをどこかでするのだ、と。今か今かとまるでお化け屋敷の通路を歩くような気分だった。
 結局のところ私に初恋というものはやってこなかった。……そんな変な顔しないで欲しい。正確にいうと、「そうか、これが恋か!私は恋をしているのか!」と思うような経験をしなかったのである。だからどの恋が初だったのかなんてもう覚えていない。今回の課題に関しては、もうこれ以上書くことがないんじゃないかと思っている。
 ただそれだと全く文字数が足りないし、自分の恋のルーツは今後の人生のためにも、まあひいては話のネタのためにも知っておくべきだという気もするので、色々と記憶を掘り返してみることにする。
 とはいえろくに恋愛もせずに小中高と部活だとか勉強だとかと仲良く学生時代を送ってきたタイプの人間なので、掘り下げて楽しいような甘酸っぱい思い出もない。ただいうなれば、一つだけ、あれがもしかしたら初恋だったのだろうかというエピソードがある。どうせなのでその話をしようと思い立った。あまり楽しい物語ではないけれど、自分の中にいつまでも置いておくことで、熟成されるとか、深い味わいになるとか、そんな見込みもなさそうなので。

 登場人物は私と、のみやゆうきくんである。今以上に内気で口下手で、人との干渉を嫌がった私が、幼稚園に入園したのち上手くやっていけるのだろうかと両親は心配していたらしい。そこで私は入園前から児童館に通わせられていた。そこに、のみやくんがいたのである。児童館で仲良くなった私たちは、偶然幼稚園も同じで、幼少期のほとんどの時間を一緒に過ごしていたのだという。……ここまで曖昧な言い方になってしまうのは、私自身、全く彼のこと、あるいは児童館、幼稚園に通っていたときことを思い出せないからである。住んでいるところは思ったよりも遠かったため、小学校が違ってしまったことが何よりも大きい原因だろう。まあ、母親同士の仲が良かったことや、小学校三年生くらいになるまで形式だけの年賀状を出し続けていたことが、のみやくんの存在と私たちの関係の証拠になっていたわけだけど。

 私の区では毎年何校かの小学五年生が集まり、連合運動会というものが開かれていた。運動会というのは名ばかりで、実際のところは記録会のようなものだったのだけれど。体育が得意でも好きでもなかった私は、適当に自分の出ている競技の計測をすませ、そそくさと座席に戻ろうとしていた。正面から、割と交流のない学校のゼッケンを着た集団とすれ違った。男の子が6人ほどいて、みんな快活に動き回っている。疲れていたので無邪気な元気さに少しげんなりした、その瞬間だった。ベタな表現になってしまうが、電気が走るような、そんな衝撃。その集団の一番後方、じゃれ合う他の子達を見て呆れたように笑っている男の子がいた。白い肌、端正な顔、少しクセのある真っ黒な髪。

「のみやゆうきくんですか?」

一瞬、自分から出た声だとわからなかった。すれ違った集団に向けて発せられた、なんの考えもない一言。全く見た目も覚えていなくて、そういう子がかつて私の世界にいたのだと親から言われているだけだった。なのに何故か、その子がのみやくんだと、間違い無いと、確信していた。

「はい?」

彼が振り替える。私は私に走った電流が正しかったのだと思い知った。そう、彼は紛れもなく児童館で出会い、幼稚園の間ずっと一緒だったのみやゆうきくんだったのだ。けれど、

「……あの、どちらさまですか?」

そう。電流が走ったのは、私だけだったのである。それが意味する事実からは、気づかないふりをし続けてきたけれど。

「あ、いや、すいません、人違いでした!」

名前を言い当てておいて人違いも何もあるか、とつっこみたい。彼としてもきっと気味が悪かっただろう。いきなり見ず知らずの人間に呼び止められて、人違いでしたなんて。今更とはいえ直視してみればあの衝撃は、恋によるものだったのかもしれない。それなら間違い無くあれが私の初恋だ。……まあ、どちらかといえばくだらないジンクスに縛られることのない、もっと純粋な感情であって欲しい気もするのだけれど。

0 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 5 (0 投票, 平均点: 0.00,  総合点:0  |  
投票する為にはユーザ登録する必要があります。
Loading...

「恋じゃなかったと信じたい/初恋/θn」への3件のフィードバック

  1. 主題と設定のバランスがあまりとれていないように感じました。二人が再開してからの話が駆け足だったので、もっとそこに重点を置いてもよかったと思います。「そう。電流が走ったのは、私だけだったのである。」という文は個人的にかなり好きです。

  2. 自分は覚えていたのに、相手は覚えていなかった時のさっくりとした羞恥と切なさが、重くなりすぎずうまく出ていると感じた。ベタではあるけれど、そのリアル感を出すのはなかなか難儀だろう。これ以上詳細に描写されていても雰囲気が壊れていただろうし。ノンフィクションゆえの強みでもあるかもしれない。
    なので、ぐだぐだとした前半の語りがもったいない。あとは、「電流が走る」というような表現が二回使われてしまっているのがインパクトを鈍らせてしまった印象。

  3. 導入部が冗長かな、という印象です。いっそのことバッサリ切っちゃってもいいかもです。
    改行が少なく文字が詰まっていることもあり、読み進めるのにかなり時間がかかってしまいました。カウントしたところ大体1700字程度でしょうか、僕も2000字を超えているので人のことは言えないのですがもう少し読みやすくする工夫ができるとなお良くなると思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。