30+1なお店へ/初恋/きりん

比較的温暖なこの町でも、12月頭ともなるともう冬である。電車から降りると深々とした寒気が身に染み入ってくる。
私の真っ黒なコートの裾が微かに引かれた。見やれば、今年5つになる娘がこちらを見上げていた。
「ママー、今日は?」
「今日は寒いから、いいでしょ?」
正直、仕事を終えて、お迎えに寄って、さらに帰ってからの家事もあるのだからさっさと帰りたいんだ、ママは。寒いし。
「……でも今週まだ行ってない」
今日は木曜日。駅前を通るのは平日ぐらいのもので、明日は恐らく送迎バスの日だ。
「えー。持ち帰りだよ?」
「うん!」
ぱっつんにした前髪を翻し、ショッキングピンクのダウンコートでもこもこな4才は、私を通り越してバタバタと階段を駆け下りていった。普段は大人しいくせに、こういう時だけあの子は活発になる。

一緒に帰るときの私と娘の暗黙の了解、それはアイスクリーム。駅前には全国チェーンの小さなアイスクリーム屋があり、おばあさん、に近いおばさんと時折親類らしき兄ちゃんがやっている。閉店時間に間に合う帰り道にはしょっちゅう寄っているので、もうすっかり顔なじみの常連だ。我ながら甘いが、平日は親が2人して仕事ばかりなので、ついつい娘を甘やかしてしまうのだ。いわばお詫び。
ああ、またきらきらとした目でこちらを待っている。アイスクリームが他の何より娘を喜ばせるなら、なおさら。

ショーケースにひっついて眺める娘は、まるで恋する乙女である。結局いつもチョコレートにチョコチップの入ったフレーバーを選ぶのだが、それとこれとは別らしい。う〜、などと唸りながら、ケース前を右往左往。今日はお兄さん店員だが、無表情ながらも苦笑が漏れている。
「ほら、決めなさい。お兄さんもママも待ってるから」
「うん。……このチョコレートのください」
結局いつも通り。店員さんがはい、と応えてアイスがぐるぐるぐると削られていく。
「ママは?」
「ママは寒いからいいよ。一口ちょうだい」
途端娘の顔が曇った。
「え〜。……まぁいいけど」
私の一口はデカいと不評だ。

「ありがとうございました〜」
お店を後にし、うちまでをてくてくと歩く。隣りを歩く娘は至極上機嫌だった。まだしばらくは、こんなアイスクリーム好きな娘でいて欲しいと思う。

私のたまの楽しみは、母親と寄るアイスクリーム屋さん。冬でもぜんぜん関係ない。

アイスクリームはもちろん好き。
このときはママが甘やかしてくれるから好き。
お店のおばちゃんが笑ってくれるのも好き。
あと、ときどきお兄さんだとどきどきする。
でもちょっとだけ笑ってくれるから好き。

ママとパパが夕飯を食べる横で、私はアイスクリームをかじる。次に行くのがまた楽しみだな。

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「30+1なお店へ/初恋/きりん」への3件のフィードバック

  1. 言い訳をさせてください。
    投稿したと思ったら下書き保存だったのです。今気づきました。

  2. 母の子供を愛する姿や子供の、無邪気に思われる一方で人を好きになっている様子など、親子のありふれた日常の中の1ページをよく表現できていると思います。
    しかし、娘がほれた「お兄さん」に関する情報が無さすぎるように感じます。例えば「かっこいいお兄さん」などとすれば、より娘が惚れている様子がよりわかりやすいものになるのではないでしょうか。
    視線の転換もいいアイデアだと思います。しかしこのままでは転換点がわかりにくいので工夫をすべきだと思います。
    また、最後にタイトルについてですが意味ありげなタイトルになっていながら(自分が読み取れてないだけかもしれませんが)本文に生きていないのが残念です。

  3. もったいない!!すっごい面白いし人間味溢れるすごい好きな文章です!だから根幹はそのままに技術的なアドバイス?をいくつか!

    色々と年齢とかのバランスがあるとは思うけど、31の足し算に合うような年齢設定とかにしちゃうとか。27+4かなー…

    最後の娘のところが文章が固いので、敢えてひらがなだけで書き込んだり誤字を入れたりして幼さを演出する。それにできれば大幅な改行を挟むとか。

    こんな感じでいかがでしょうか。

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