嘘偽り/初恋/ばたこ

 

5・6時間苦心して思い起こしてみたところ、自分の記憶には文章化に値するだけの初恋の記憶が無いことが判明した。しかしそれでも課題は出さねばならない。更に苦心を続けること数時間、結局僕は創作作品を作り出すことに決めた。よって以下にあげる文章は「嘘偽りの」話である。

 

午後六時半、渋谷ハチ公前

 

待ち合わせ相手は渋谷に慣れていなかったが、意外とあっさり出会えた。目的地へ向かいながら他愛もない会話をする。

 

「どんなお店なんですか?」

 

相手はこういった類の店に入るのが初めてらしい。確かに2年位前の僕だってこんなとこに行く自分は想像できなかったはずだ。

 

「まぁこう、親しみやすい感じかな」

「へー、わけわかんない」

 

僕の話を聞いた相手の反応はイマイチだった。多分日現実感を楽しむ店のイメージと僕の言葉が頭の中で齟齬をきたしたのだろう。仕方ないから話を変えてみる。

 

「そういえば今日新宿でスカウトされた」

「何にですか?」

「ホストと芸能事務所」

「へー...。」

 

イマイチ反応が良くない。どういうことだ。もしやこいつ、僕がスターになるのを恐れてるのか?

 

「反応悪いな」

「うーん...。」

「どうかした?」

「いや、それ詐欺じゃないかなーって」

 

詐欺?SAGI?あ、鷺のことか。にしてもなんでいきなり鳥の話なんか...。

 

「まさか先輩、信じてないですよね」

 

やはり詐欺の話だったらしい。ヤバイ、信じてたなんて言えるわけもない。ましてやも的到来で舞い上がってたなんて...。

 

「あたりまえじゃん」

 

嘘をついちゃいけません。幼いころに言われた母の言葉を今なぜか思い出した。場違いにもほどがあるな全く。

 

ほどなくして目的地に着く。

 

「本物はやっぱり違いますね!」

 

女の子でもメイド喫茶はテンションが上がるらしい。お絵かきできる料理やら限定ライブやらを楽しみ、彼女はかなりご満悦の様子。一方の僕は慣れきったそれらはそこそこに、メイドさんとの雑談を楽しんでいた。

 

「非現実感台無しです」

 

仕方ないだろ、メイドさんの方から話しかけてくるんだから。

 

「あ、あと」

 

何か様子がおかしい。

 

「あれ、なんでしょう?」

 

彼女の指し示す先を見ると、そこには二人の女性。テーブルに向かい合って何か大事な話をしているように見える。面接、かな。でもなんでこんなとこで…。

 

「若い方見てみてくださいよ」

 

いわれるままに視線をずらすと、そこには絶世の美女。いや美少女かな。あ、なんかすごい似てる人知ってる。あの、声優の…。上坂すみれ!そうだ、すみぺにそっくりなんだ。僕と年は対して違わないように見えるすみぺは、向かい合う女性の話を熱心に聴いている。

 

「すっごい綺麗ですよね」

「同意」

「あれなら惚れます?」

「一目惚れ?それはないかな」

 

男子校出身の八年恋してない男をなめるな。

 

また他愛もない話に戻って数分、ふと先ほどの二人を見るとそこには誰もいない。帰ったのか、惜しいことをした。いや別に何かをするつもりも度胸も無かったのだけど。キッチンの人のお手製オムライス、メイドさんのおまじない済みに手を付ける。新感覚、オムが甘い。不思議に感じて備え付けの卵焼きを頬張るとこれまた新感覚、味が無い。キッチンさん、取り違えてます…。そんなアンバランスオムライスに苦戦していたら誰かに話しかけられた。

 

「初めまして」

 

今にも消え入りそうなほど弱弱しいその声は、それでも確かに僕の耳に届いた。顔を上げるとそこにはすみぺ。この店の研修用メイド服に身を包んだ彼女は、こういった服装には慣れていないのか少し伏し目がちにこちらを見つめている。緊張からか、時折メイド服の裾を握っているのが不慣れさを演出していて好感度が高い。

 

「あの、今日からメイドになりました、りのんです」

 

りのんちゃんというのか、覚えておこう。すみぺもといりのんちゃんはたどたどしく言葉を連ねる。

 

「これから、頑張って御給仕しますので、その、よければ…」

「ご主人様!チェキは如何ですか??」

 

見かねて話に入ってきたのは、店長のひなたさん。今度七歳のお誕生日(勤務七周年)を迎える大ベテランだ。彼女が言うには今ならりのんちゃんの初チェキ(写真)を撮れるらしい。一緒に来ていた相手と話し合い撮ることに決めた。

 

「ぱしゃりーみん!」

 

ひなたさんが撮ってくれ、写真が現像されていく。これからそれにお絵かきをするらしく、ふたりはおくのほうに消える。

 

「先輩、男の人が照れるのって気持ち悪いですね」

 

そんなに表情に出てただろうか。生理現象なんだから許してほしい。

 

「ご主人様」

 

お絵かきを終えたらしい二人がこちらに帰ってくる。

 

「今日は、ほんと、その...」

 

それだけ言ってまた奥の方に帰ってしまった。

 

「りのんちゃん、どうしたんでしょう?」

「こっちに効かれても困る」

 

すると一緒に奥の方へ消えたひなたさんが帰ってきた。にやけてる。何があった?

 

「ご主人様、りのん泣かせちゃだめですよ」

 

...え?泣いてる?なんで?しかも僕のせい??

 

奥からりのんちゃんが帰ってくる。確かに目元は赤く充血している。

 

「すみません。普段絶対泣いたりしないんですけど…その」

「どうしたの?」

「…初めてメイドになって、チェキを撮って。それがどうしようもなくうれしくて…」

 

頭がくらくらした。こんな感覚初めてだった。僕の方を見る後輩がひどい顔をしてる。そんなに今の僕はわかりやすい表情をしてるんだろうか。でもそれも、なんだか許せるような気がした。

 

 

 

会計を済ませて店を後にする。後輩が僕に話しかける。

 

「先輩、また来るでしょ」

「もう来ない、絶対」

 

また母さんの声が聞こえた。

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「嘘偽り/初恋/ばたこ」への2件のフィードバック

  1. 詐欺まがいのことをされても気づかず、いまだに母親の「嘘をついてはいけません」という言葉が頭にこびりついている。そんな大人になりきれていない主人公が、客に快くするためにキャラを作っているメイドさんに惚れてしまうという展開は面白かったです。「サギ」と聞いて「鷺」を発想するところなど若干無理がある気もしますが。
    嘘偽りの文章であることと人に騙されたり自分に正直になれなかったりするところを重ね合わせている発想もいいと思いました。
    ただ、情報がなかったために、初めの部分で待ち合わせた相手を恋人なのではないかと思ってしまいました。その部分の描写を工夫すればわかりやすくなると思います。

  2. 最後の「嘘偽り」の伏線として、初めの方にたわいのないエピソードを入れたことはおもしろいが、最初の方に若干無理矢理感があるなと思った。そこの部分だけ他から浮いている感じがするので、もう少し物語の展開に関連した自然な会話を挟んだ方がいいのではないか。
    それほどゆっくり時間が流れているイメージではないので、改行は1行分ずつでいいと思った。それから、最初の言い訳もいらないと思う。せっかくタイトルが「嘘偽り」なのだから、主人公は嘘をついて、筆者も実話に見せかけてそうじゃないよ~という構造だったら、ちょっとおもしろいなと考えた。

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