めんつゆは飲むものじゃない/書評/θn

 「家族という病」という題名はなかなか人を惹きつけるように思う。文中にもあったが家族の存在は人生においてかなり重要な地位を占める。それを病だと両断したそのタイトルはまさに初めからベストセラーになりうる本であったことを示しているだろう。売れる新書のタイトルは得てして過激だ。
 そんなこんなでいったいどのように私の家族像をぶった斬ってくれるのだろうと期待して読み出したわけであるが。結果としては今か今かと待ち望んでいたら、いつの間にか本は終わってしまっていた。むしろ読み進めるにつれて「この人は本当に家族という集団に対して確固たる意見を持っているのだろうか」と感じてしまう。要は期待外れであったのだ。
 内容としては現代社会における家族という集団の変容、問題点、課題について書かれた文章だ、と言ってしまって良いだろう。一貫して家族はどうあるべきかという観点が中心となっている。
 家族はしんどい、難しい、意外と分かり合えない……。それらのフレーズがなんどもなんども繰り返された。少々くどい。私はそれ以上の解決策を求めていた。家族が病であるなら、処方箋もあるだろうと思っていたのだ。しかし文章は病であるということを明言するだけして終結してしまった。
 そしてもう一つ、古い。現代社会に異論を呈しているのだから多少懐古的な文章になってしまうのはありがちな事案であるから別に問題はない。ただそういうことではないのだ。筆者が生きている世界が古いように感じるのである。
 9歳で終戦を迎え、軍人であった父とそれを献身的に支えた母、腹違いの兄を持つ筆者の意見に、戦後70年を生きる私が共感できるはずもないのかもしれない。しかし筆者が提示する理想の家族像は、あまりにも現代社会とズレてしまっている。筆者は平凡な、暖かい家庭が欲しかったのかもしれない、しかしもう作り方すらわからないのかもしれない、と同情に近い感情を抱いている。最終章に載せられた家族への手紙は、これまで筆者の言っていた「一人で生きていく」という言葉は強がりだったのかと思わせる。筆者の中にも揺らぎが見えてしまうのだ。共感も、感銘を受けることも、起こりうるはずがなかった。
 珈琲だと思って飲んだらめんつゆだった。その手の期待の裏切られ方である。まあ本書には「過度な期待などしてはいけない」とか「期待は自分にこそすべきものなのだ」と書かれているから、それは教訓にすべきなのかもしれないが。
ここまで考えて、一番家族に期待していたのは筆者自身なのだろうと気づき、少し切ない気持ちになった。

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「めんつゆは飲むものじゃない/書評/θn」への3件のフィードバック

  1. 「珈琲だと思って飲んだらめんつゆだった」ですか。すみません、これは何かからの引用でしょうか?でしたらぼくの勉強不足です。その場合は以下の駄文を読み飛ばしてください。

    もし引用でないならば、タイトルにもなっているこの表現自体にぼくの中で大きな『?』マークがついてしまいました。見せかけが一見似ていたから試してみたら実は似て非なる代物だった。
    言わんとすることは理解できるのですが、イマイチ腑に落ちないというか、例えがしっくりこない感覚に襲われました。
    また、細かい箇所ですが第五段落における「そしてもう一つ、」という表現も気になりました。「もう一つ」、”Another” を提示するのであれば、「ひとつ」「まず」など、”One” を前提として配置するほうが文章の構造として適当なように思われます。評論文などは一般の文章以上に構成力を問われるので、その点も注意するとより良くなるのではないでしょうか。

  2. 筆者の思想と現代社会のズレというのは確かにこの本の致命的な弱点であり、そこの指摘があったのが良かった。ただ、自分が年をとり「ズレたほうの立場」になった時を考えたら、怖いしどうしたらいいか分からないなと冷や汗ものであるな。
    ただ、細かいことなのだが「揺らぎが見えてしまう」と共感・感銘を受けないというところが少しひっかかった。言いがかりかもしれないが、著者の揺らぎが見えてしまう文章は果たしてだめなのだろうか。論文などという形式だったら感情は排すべきだが、この本は大変微妙な位置にある。

  3. 内容と自分の意見をうまく対応させながら書いているから、本を読まずにこの書評を見た人でも割と理解しながら読んでいけると思います。前の人も書いてますが、珈琲だとおもって飲んだらめんつゆだったというのが例の提示としてはいまいちこちらに伝わってこないものだと感じました。個人的には解決策を病を受けて処方箋と表現しているのが好きです。

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