読んでからが勝負/書評/エーオー

 

間違いなく、私にとって強烈な作品だった。

なぜなら、「この本を読みたい!」と思わせることがひとつの目的とされる、書評の概念を根本から揺るがす本だからである。

著者の下重曉子氏は、1936年生の作家・評論家・エッセイストである。元NHKのアナウンサーであり、現在でも講演活動などを行っているようだ。

そんな著者による本作品『家族という病』(幻冬舎新書/2015)は、オンライン通販サイトAmazonでベストセラーの一位を獲得している(2015年12月9日現在)。

「『家族はすばらしい』は欺瞞である」。

画家の夢を諦め軍人としてエリートコースを歩むものの、敗戦後は公職追放されてしまった父。娘に対して過干渉な母。父との軋轢により疎遠になってしまった兄――下重氏は今は亡くなってしまった「家族」であった彼らへの思いを語りながら、「家族とは何か」を問うていく。血のつながりのない他人であるが、「家族」だと思える配偶者・つれあいについての話、そして時おり、家族がらみのトラブルや事件、「家族写真入りの年賀状」などの社会現象を取り上げ、その裏にある「家族」の美化について指摘していく。

さて、ところであなたには「自分で文章を書いて本を出したい!」という望みがあるだろうか? 本でなくてもいい。ブログや討論、何かを誰かに向かって語りたいという思いがあるだろうか?

あるならば、この本を読むべきである。

この本は、かけがえのない大切なことを教えてくれるだろう。

「欧米ではこうした犯罪は成立しにくいのではないか。日本人は(中略)他人に知られる前に内々に処理しようとするから振り込め詐欺被害は一向に減らない」。孫の身を案じてお金を振り込もうとする婦人の事例を挙げ、「家族という甘い意識」によるものだと著者は述べる。欧米と日本の振り込め詐欺の実態などについてのデータは、ない。その後も根拠の明示されない例はいくつも挙がる。初めて飛行機に乗り、窓の外を見ていた老人。そこに現れ「あてつけがましい言い方」をして席を譲らせた親子連れの行動を、「家族という名の暴力」だと著者は断じる。胸が痛む光景だ。しかし果たして、それは「家族」だけの問題だろうか?

おそらく、この本は評論ではない。エッセイでもない。その他あらゆるそれらの形式をとる前の、心に浮かぶよしなしごと、のようなものだろう。つまり、読者というものを意識する前の段階である、極めて個人的で主観的な文章のように思えるのだ。

さて、そのような極めて個人的で主観的な文章が、「本」として公、世の中に出て多くの人に読まれることになった時、何が起こるのだろうか。

本書の最大の問いの答えは、読者に委ねられている。

本を手に入れましたか? では、ペンを持ちましょう。付箋でも、頭の中のマーカーでもいい。気になった場所に印をつける。主観とは何か、公と私、「本」とは何か。繰り返し自問自答する。納得できるような説明を導くために。あなたの作るものに答えがあらわれてくるくらいに。そんな、たゆまぬ努力を続けられる気力がなければ、あなたがレジで払った842円と、そしておそらく読んだ後に感じる後悔に見あった価値は生まれないだろう。

 

 

 

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「読んでからが勝負/書評/エーオー」への3件のフィードバック

  1. 課題図書の内容を痛烈に批判しながらも、その存在意義、価値を問い続ける自己矛盾、自傷的な文章だと感じました。矛盾に満ち溢れたこの本の批評にはぴったりだと思います。
    著者の紹介から本の概略へと続き、さてそろそろ批評に移るかというときに「さて、ところで~」と問いかけをぶつけられ、あとはペースに乗せられて最後まで読み切ってしまいました。一本取られた気分です。

    ただ、この本を反面教師とし、分析することによりあらわれた悪い要素を避けていったとしてもいいものはできないのではないかと思ってしまいます。
    嫌いな人には似まいとするより、そういう人もいると理解したうえで気にしないのが一番の得策だと聞きました。本の場合にもそれは当てはまるのかもしれません。

  2. ただ頭ごなしに批判をするだけでなく、本に価値を見いだそうとするあたりはさすがだと思いました。本を読んでただイライラしてた僕とは違いますね。問いの答え、エーオーさん自身が辿り着いた答えも少し聞いてみたかったです。

  3. 逆にすごく痛烈ですね。どんな読書も無駄にならない素敵な姿勢だと思うので見習おうと思います。ただ、この文章が大衆向けに書かれているのだとすれば、伝わりづらくもあるのかなぁと感じてしまいました。

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