蜜柑/嵐/染色体XY太郎

夜。
切れ目なく窓に打ち付ける雨。時折、「ひゅおぅ」という風の音が聞こえてくる。
大家のおばあさんは、明日天気が荒れそうだとわかるといつも、建物がぶっ飛ぶからと言って、雨戸を閉めるようにと注意勧告をする。けれども、僕は一度も雨戸を閉めた事はない。

きっと今晩は雨は止まないだろう。僕は五月蝿くて眠れないと思って、どうせ同じことならと、ラジオを聞いて眠る事にした。ノイズに混じって声が聞こえる。けれど、周波数を合わせても、相変わらずノイズが聞こえる。あゝ、そうか外では雨が降っているのだ。
僕は目をつぶってラジオを聴く。深夜ラジオの少し愉快なパーソナリティの会話。それほど面白いわけではない。でも、決してつまらないわけではない。それがなんだか心地よくて。そんなまどろみの中で、いつの間にかラジオからは流れる音はノイズに変わっていた。
ノイズ。
雨音。
心配したのが嘘かのように、僕はいつの間にか眠りについていた。
もしかしたら、このまま眠り続けているのかもしれない。
わからないけど。

朝。
女性パーソナリティのご機嫌なモーニングコールで目を覚ますと、雨はまだやんでいなかった。僕は出掛けるのが億劫で、雨がやむまでは出かけるまいと、カビ臭い、湿った布団に潜り込んだままタバコを吸う。タバコの煙が黒い天井に向かってふわふわと登っていく。煙は気付くと消えていて、その消える瞬間をなんとか目で追おうとするけれど、やっぱりいつの間にか消えていて。眼鏡をかけていないからだろうか。
タバコを全部吸いきってしまった頃、いつの間にか雨は止んでいて、外は見違えるほどに青い空が広がっていた。

僕はタバコを買いに行くことにした。
今日は使い古した焦げ茶色のマフラーではなく、フリーマーケットで買った黒いストールを首に巻いて。デパートで買ったニット帽でももちろんなく、古着屋で100円で買った少しジジ臭いマウンテンハットを被って、僕は出掛けた。
12月だというのに、湿気と太陽のおかげで、嘘みたいに暖かくて、コートを着てこなくてよかったなぁと思いながら歩く。タバコ屋はそれほど遠くはないけれど、坂道を登らなければならないのが少し面倒くさい。登っていくにつれて、少しつづ体が暖かくなってきてますます蒸し暑い。残り香のように吹く風がせめてもの救いだ。風だけは昨日と変わらず強くて、道路に少し残った落ち葉がアスファルトを登るように転がっていく。
山間にかかる橋。その上で、微かに、蜜柑の匂いがした。その匂いに驚いて立ち止まると、ひときわ強い風が吹いた。その風に吹かれて、僕のマウンテンハットが山間へ飛んで行く。なんとか掴もうと手を伸ばしたけれど、気づいた時にはもう遅くて、マウンテンハットは風に乗り、ふわふわゆっくりと、遠くへ、どんどん遠くへ進んでいく。僕はあの蜜柑の匂いを思いながら、マウンテンハットが山の陰に隠れてしまうまで、そこに立ち止まったまま眺めていた。

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「蜜柑/嵐/染色体XY太郎」への3件のフィードバック

  1. 初めに話の大筋と関係ない話になってしまいますが、台風と12月というのは無理があると思います。
    話の流れとしては、一日目夜と二日目朝のつながりがすっきりしない気がします。書き方的にこの二つで分かれているので、ありがちな設定ですが、朝起きた時には晴れ渡っていてもいいと思います。また、雨やラジオのノイズを二日目に生かしてもいいのではないでしょうか。
    何気なく聞いているラジオが心地よかったりするところなど、一つ一つの情景描写はうまいと思います。また、山とマウンテンハットをかけているのもいいアイデアだと思います。

    1. 台風については直しました。後から12月にしたのでずれてしまったんですね。

  2. 情景描写がうまくてまるで目で見ているかのようにその光景が浮かんできました。天気の変化に伴って心情が変わるとかがあるのかなと思ったら、そういうわけでもなさそうだし、嵐がやんだことでなにが起きたのかがイマイチ伝わりませんでした。そこに大きな変化をつければメリハリのある文章になったかと思います。

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