冬の嵐/嵐/のっぽ

「何か質問はありますか?」

「はいっ!」「はいっ!」「はいっ!」

1人の中年男性を囲むようにまだ20歳そこそこの若者が6人、円状に座っている。

その言葉を待ってましたと言わんばかりに、若者たちは嵐のような勢いで手を挙げる。

その中に一人だけ手を挙げていない若者がいた。よく見ると他の5人がスーツやフォーマルな恰好をしている中、その若者だけフード付きのトレーナーにジーパンと一人だけ場所を間違えたんじゃないかと思うような恰好だった。他の5人のピシッと決まった七三分けが、彼のピコっとはねた前髪を際立たせる。

 

ん?よく見ると彼だけ手元にメモ帳を持っていないぞ。他の5人はヘッドバンキングしながら中年男性の言葉をメモ帳に書き連ねているというのに。一言一句逃さないという姿勢で中年男性を凝視しているが、こんなに見つめられて中年男性は居心地が悪くないのだろうか。

 

「~ということです。これでよろしいですか?」中年男性が質問に答え終わり、他の若者が手を挙げようとしたときだ。

「ありがとうございます。それと、会社で一番楽しかったことを教えてください。」

 

今回答を貰ったばかりの学生がまさかの追い打ち。しかも回答内容と全然関係ないどうでもいい質問で。他の学生たちが挙げかけた手を下におろす。表情はさっきから全然変わらないが、内心怒りがこみあげているに違いない。その中でフードの子だけは、なんだかホッと安心したような顔をしている。きっと早く終われと願っているのだろう。

 

「楽しかったことは、うーん…仲間とやったバーベキューです。はい、じゃあ次の人。」

連続質問を嫌って社員が他の人に質問を促す。連続質問をした若者は自分のターンをやり切った満足感を顔に浮かべている。対した質問ではなかったが。

 

勢いよく挙がった手の中から社員が次の質問者を選ぶ。さっき質問した若者も同じように手を挙げる中、やっぱり一人だけ手を挙げない。

 

選ばれた子はその5人の中で一番気合の入った子だった。意識高いの権化とは彼のことだろう。しっかりセットされていながら重さを感じさせない七三分けに、デパートの奥の方で売られている高そうなセーターに、足にぴったりと張り付いたシュッとしたズボンに、無駄な黒光りを抑えたマットでお洒落な革靴。

「御社ではクリエイティブプランがうんたら、コミットしてかんたらですがどうですか?」

そのあとも否応なく続く質疑応答。我先にとアピールを繰り返す学生たち。

 

そして20分が経過し、質疑応答が終了した。

フードの若者は感じたことだろう、まるで嵐を抜けたかのような晴れやかな気持ちを。

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「冬の嵐/嵐/のっぽ」への3件のフィードバック

  1. 就活の類について全くもって知識がないので、状況、雰囲気などを把握するのが大変でした。今何をしている場面なのな掴みにくかったです。
    出だしの小学生並みの元気の良さと、就活生か!というギャップが良かったです。嵐の過ぎたような感覚はセーターだけでなくスーツ中年も感じていそうです。

  2. フードくんは何者なんだ?と読んでいる最中に感じていましたが、そういう深読みを必要とする人物じゃなかったのかと読み終えて思いました。思わせぶりな面があるのかもしれません。勢いとか殺気立った様子がよくわかりました。

  3. 嵐のような、というテーマ設定が若干こじつけのような、強引な印象を受けました。
    就活という場は僕たちにとって聖域なので、経験者の特権を最大限に活かしているように思います。
    意識高い系のキャラ作りも見事ですが、「御社ではクリエイティブプランがうんたら、コミットしてかんたらですがどうですか?」のように、うんたらかんたら・かくかくしかじか・ああだこうだを会話文の間に挟んでくるのはどうなのでしょうか。少なくとも僕は地の文以外でこのような表現には抵抗を覚えてしまいました。

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