操り雲/嵐/さくら

― 6時半現在、三浜市には大雨洪水暴風波浪警報が発令されています。住民のみなさんは、なるべく外出を控え、外出される場合には、雨具など万全の備えをして注意深く外出してください。 ―

 

今年も台風の季節がやってきた。ここ1週間、天気予報からニュース番組まで大型台風の話題で持ち切りだ。そしてなんと、その台風が僕たちの住む三浜に向かってきているのだという。

昨日、学校ではプリントが配られた。僕たちの学校は、午前7時時点で暴風警報が出ていれば、その日が一日休校になる、と書かれていた。

「よし!台風にお祈りしよう!」

「テルテル坊主吊るそうか!もちろん逆さだぞ!」

クラスメイトは口を揃えて、明日の休校を願うような発言をした。僕もその一人。面倒な学校が休みになれば、昼まで寝ていても怒られない。なんて幸せだ。

みんなして台風に淡い期待を寄せながら、授業が終わった。いつもの友達と、いつもの通学路を歩いて帰る。僕はグループの中で一番家が遠いから、いつも最後は1人になって家路へ向かう。

そんな1人の帰り道、空き地に不思議なものが落ちているのに気が付いた。

「雲を操れる……?」

それは雲を自由に操れる装置らしい。当然、いきなりそんなことを言われても信じられるはずがない。とはいえ、大したことない労力で明日を休校にできるなら願ったりかなったりだ。試しに持ち帰ることにした。

家に帰り、装置を見回すと、裏側に小さな冊子が収められていた。取扱説明書のようだ。こんなに親切なら、僕でも操れそうだ。

早速使ってみる。まずは目の前の雲をどかしてみよう。画面の上で、衛星写真の上の雲を指で弾くだけ。簡単な操作だ。しばらくすると、暗かった部屋に西日が入りこんできた。窓に目をやると、さっきまで曇っていた空が雲一つない美しい夕焼けに変わっていた。

しめしめ。あとは明日の朝、三浜に台風を持ってくるだけだ。

夜が明けて朝になった。僕はいつもより早く起きて、朝とは思えない昂ぶった面持ちで例の装置を起動させた。

あっ

気持ちが昂りすぎてうっかり押しすぎてしまった。

ゴゴゴゴゴゴ…………

西の空から轟音が響き渡る。僕は嫌な予感をする以外になかったし、予感が正しいことも認めるほかなかった。そりゃあ、空が見たことない色してるんだもの。

僕は、1つで良かった台風を3つ連れてきてしまったのだ。台風のバーゲンセールだ。

地響きが耳を劈き、僕の家も根元から強い風に揺らされている。僕は取り返しのつかないことをしてしまったのだ。このままでは、僕も、家族も、友達も、時間の問題だ。僕の目の前で、過去の思い出が展覧会を始めた。

あれ?

焦っていた僕だが、ふと自分の行動を振り返ってみると、この装置、昨日僕は空を晴らすのに使っていたじゃないか。なんだ、今までこんなにパニックになっていたのがバカみたいじゃないか。我に返った僕は連れてきた台風を取り消した。

ゴゴゴゴゴゴ…………

あっさり台風は帰っていった。空が元の色に戻る。いつもの青い空が帰ってきた。時刻は6時50分だった。

6時50分だった。

部屋にあったテレビ画面の上部に、「気象情報」の文字が映る。

― 三浜市、暴風警報が解除されたとのことです。 ―

 

そして7時を回り、学校からは平常通り授業を行う旨のメールが送られた。

やっぱり普通の生活が一番だ。これに懲りた僕は、装置を元あった空き地に捨ててくることにした。

 

しばらくしたある日、装置はまだ空き地にあった。不法投棄で粗大ごみに溢れたこの空き地には、よくカラスもやってくる。その時、飛んできた1羽のカラスが装置をつついてしまった。

ゴゴゴゴゴゴ…………

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「操り雲/嵐/さくら」への4件のフィードバック

  1. 星新一っぽいですね。なんで、見た瞬間に雲を操れるかわかったのかは疑問が残るけど、終わり方は良いと思います。学校で台風を心待ちにする前半部分を短くする、もしくはなくして、装置を手に入れてからの場面に重点を注ぐと、起承転結のバランスが良くなると思います。

  2. 台詞が不自然なのが気になった。詳しい年齢が明示されていないものの、そんなに幼くはないような登場人物が、こんな漫画のような言い方をするだろうか。
    因みに私はこち亀っぽいと思った。よくできた話だけどそれだけにありふれていてどこかで見たように思える。

  3. 面白いか否かで言ったら面白いですし、読みやすいか否かで言ったら読みやすい。でもなんといいますか、それ以上に何か特別なものを感じることができなかったです。それもありだと思うしこのあっさりした感じは好きなんです。ていうかこれ多分自分の読みの浅さと感受性の問題だからさくらさんにはあまり関係ないのか……?自分の未熟さを他人の批判に押し付けるの本当に心地悪くて嫌いです、あーコメントやだ、ごめんなさい。
    今回の分の雰囲気だと一人称から三人称に移るのもかなり自然で、そういう点では形式とかテンプレートに固執しなくても読みやすけりゃいいんだなあと。形式ばかりにとらわれるよりも書きたいモン書いたほうがいいですよねえ……。
    さて、というわけでこのお話は多分笑わせたいものだと思ってるんですが、もっと笑わせるためにはどうしたら良いのでしょうね?にちゃんねるのコピペ文章なんかを参考にするともっとキレと落差のあるオチが書けるかもしれません。十分面白いとは思うんですけどね、うん。

  4. 論理的な話が論理的に終わったという印象。広げすぎると私のように見事に収まりがつかなくなるから、このスマートに話を進めていく感じ、見習わなければいけないのだけれども。
    ドラえもんにありそうな話だと思いました。ではこれとドラえもんの違いは何か。それはみんなの好きなドラえもんとのび太が登場していないということです。多分それだけだけど、そういうことだと思います。つまり、替えのきかないものがあるかないか。
    スタジオの文書は課題ですが、だからこそ、あなた以外に替えのきかない文書が読んでみたいと思う。個性なんて言葉は陳腐だけど、でももっとあなたのここだけは譲れないというところがみえるといいと思う。

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