現代のヤマアラシ/嵐/JBoy

ヤマアラシの群れが寒さに震えていた。彼らは互いに温めあおうと思い、互いに身を近づける。しかし彼らの体には無数の棘がある。近づけば近づくほど、互いを気付つけてしまうことになる。それでも離れてしまえば寒くてたまらない。そのままでいればやがて凍え死んでしまう。そこで彼らは試行錯誤を繰り返す。近づいたり離れたりを繰り返す。

そして彼らはついに発見する。互いに傷つけあうことなく互いに温めあうことができる距離を―――

 

 

19世紀ドイツの哲学者ショーペンハウアーが生み出した寓話である。その後フロイトやベラック博士の引用、様々な研究等により世界的に流布し、今日市民権を得て日本でも道徳の教科書に載るほど有名な話である。

 

寓話ではあるが、ヤマアラシの生態を確認してみるとする。ヤマアラシは敵が近づくと、まず尾を振って威嚇音を出し敵に警告を発する。また“ヤマアラシ”の名の由来は、この威嚇音が山を吹き荒れる嵐のように聞こえるためである。

ヤマアラシ最大の特徴である棘は非常に硬く、段ボール程度なら簡単に貫いてしまう。一方この棘は腹部、頭部には生えていない。

性格は非常に好戦的であり、これは襲われることが少ないためであるという。

 

 

ヤマアラシを調べるにあたって、また先の寓話を考えるにあたって、ヤマアラシの画像や動画を見てみたところ、意外とそれほど苦労しなくても互いに近づき、温めあうことは可能ではないかと思う。

またどのようにして彼らは交尾を行うのだろうか。お互い血みどろになりながら決死の覚悟で生殖活動を行うのだろうか。実はこちらもそれほど苦労はなくて、メスは針を寝かせているため、オスに刺さることはないという。

 

 

 

トリビア的な話とツッコミはこの辺にして、実際問題として、我々はいかにして他者と関わっているのか考えてみたい。

 

先に見たようにヤマアラシは好戦的で、非常に強力な棘を持っている。一方で現代の我々は、そんなあからさまに武器を保持しているだろうか。持っていて刃の小さな懐刀程度であろうと思う。ヤマアラシというよりハリネズミくらいのものだ。

 

しかし、代わりに我々はどんな小さな棘でも見抜く新しい能力を手に入れた。今まで見えていなかったはずの、あまりに小さな棘まで気になってしまうようになったのである。何気ない他者の言葉一つですぐに傷つき、そのごく小さな傷をいつまでも眺めている。

 

結局のところ他者にどう思われているかということが、自分がどう思うかに先行してしまい、自己を「他者に評価される自己」を通してしか認識できないのだ。こうして他者を通して自分を見つけようとする者のほかにも、重度の他者過敏症患者もいる。

 

その人は自分のテリトリーに誰かが少しでも入ると、威嚇音を出して追い払おうとする。決して争いたいわけではない。相手に対し棘を向ける勇気もない。自分が他者に注目されることがつらい。そしてもう誰も近づいてこられないように、心により強力な「ATフィールド」を展開するのだ。(漫画エヴァンゲリオンに登場する架空のバリア。Absolute Terror Fieldの略で絶対恐怖領域という。)

 

だがATフィールドは誰しもが持つ心の壁である。みなこの壁をうまいこと誤魔化しながら生きている。むしろこれがなかったら人は上手に生きてゆかれない。その誤魔化し方は、それこそ先の“ヤマアラシのジレンマ”のように何度も失敗を重ねながら学んでいくのだ。

接する相手により、柔軟にATフィールドを変形させる巧みさを、人づきあいがうまい人は持っている。逆に不器用な人はある種純粋な形でATフィールドを展開する。

 

ATフィールドはもちろん見えないが、意外と感覚的に感じ取れる部分もある。自分はいろんな人と接してその違いを楽しみたいと思う。

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「現代のヤマアラシ/嵐/JBoy」への3件のフィードバック

  1. 最初の引用文を読んだところから、エヴァンゲリオンかなと思ったら案の定エヴァンゲリオンだった。特にとっかかりもなく、読みやすくて、文体としては良いのではないのかなと思います。ただ、内容に関して言うと、嵐から山嵐の話に繋げるのは良い飛躍の仕方だと思うけれど、エヴァンゲリオンにつなげて終えると、僕のように知っている人間にとっては、ありきたりなないように思えてしまいます。なので、普遍的というか、一般論でなく、あなたの文章が読みたかったなと思いました。

  2. 私はエヴァンゲリオンに関しては、映画を数本昔に見た程度であまり詳しくないのでぱっと見ではわかりませんでした。嵐からヤマアラシを連想させるとは、なるほどと感心しました。ヤマアラシの知識なんて私は持ち合わせていなかったので、前半は勉強になりましたが、後半の人との関わり方に繋げるのがいまいち面白味に欠けるかな、と。実際、前半を読んでいたら、ヤマアラシって意外に人間臭いのだなと思ったのです。そのため、ある意味オチが読めてしまいました。ヤマアラシの説明というか、生態を知れば何人かは同じことを思うのかな、なんて。って、今回の私の文章も何番煎じだよって話なのであまり強くは突っ込めませんが!

  3. さらっと内容に入り込むことができて、上手だなと思った。細かいところだが、人間は物理的な武器を保持していないというところは、そこまで丁寧に説明しなくてもいいと思う。
    私はエヴァンゲリオンを冒頭しか観たことがないので、内容も普通におもしろく読めた。最近いろいろな人間関係の中で、傷つきやすさとか被害の意識とか、よく考えることが続いていたので、タイミング的にわああとなった(笑)
    最後が小中学生の作文みたいに、雑にまとめられてしまっているところが、少し残念。

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