記憶/嵐/眉毛

 

 

「俺はお前に興味がない。俺とお前に補完性がないからだ。」

 

その人いわく、自分の足りない部分は相手が補い、相手の足りない部分は自分が補う、そんな二人はいっしょにいるべきらしい。その方が何かが生まれるらしい。

 

言ってることは意味が分かる。そういう関係性はいいことだとも思う。

でも、興味がないなんて言わないで。

 

私は基本的に他人にいい格好しい。だからいちいち、補完性とか考えて人との関係を作らない。いっしょにいて楽しければそれでいいし、できれば誰からも嫌われたくない。

 

あなたはそんな私を馬鹿だといい、だからお前に興味がないんだと言う。

 

 

私はあなたに憧れていた。あなたの言うことは過激だけど正しい。でもその過激さゆえに誤解されることが多くて、周りに敵をつくりがちなところも。それでもあなたは誰よりも人のことを見て、人のことを評価する。八方美人に流されるまま暮らしている私は、どうやってもあなたに近づけない。

きつい顔して笑った顔は最高に優しくて。あなたの隠しがちな優しいところも弱いところも私は全部知りたい。知ってあげたい。なのにあなたは私に興味がないと言う。

 

 

すごく雨がきつくて、嵐のような日に、私とあなたがたまたま講義棟の出口であった。あなたが傘をパッと開けてそのまま歩くから、私もつられて外に出た。私は折りたたみ傘しか持っておらず、出すのに少し手間取った。

濡れる私に自分の傘を傾けてくれる。そうなの、結局そうやって、ちゃんとふつうに、やさしい人だ。

「この風だと折りたたみ厳しいかもな。」

方向が違うのでそのまま別れたけど、あのとき私は彼に補完してもらった。傘がなかなか出ず濡れる私を、中に入れてくれたあなた。あなたが困っているとき、こんな小さなことなら私でもあなたのためになれるのに。それじゃだめなのかな。お互いちょっとした優しさを与え合い、お互いを補えないのかな。

 

これが去年の話で、すっかりあなたとは会わなくなった。けれど、今でも私はあの嵐の日を思い出す。興味がないなんて言うくせに、ふつうに傘だって入れてくれるし、仲良くしてくれた。今の私はあなたになりたいなんて思わなくなったから、今会ったほうがきっともっとしゃべれるのに。それでもあなたとは会えなくて、きっとこうやって、ぼんやりとずっと憧れの存在のままなんだろうな。

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「記憶/嵐/眉毛」への4件のフィードバック

  1. ああああ、背筋がゾクゾクする。褒めてますよ。現代的なポエティックさがあって良い。ただ、テーマとの関係が薄いので、もうちょっとからめるとおおってなるのかなと思う。例えば彼が嵐のようだとか、嵐をきっかけに何かが変わったとか。ただ、台風と大雨と嵐で何が違うのかというところは曖昧なので、難しいなとも思う。

  2. ペナルティのコメント失礼します。
    女性らしい文章ですね。感情が主体として物語が動くところなんか特に。眉毛さんの色だと思います。自分に酔いしれている感じがして(故意なのか無意識なのか分からないけど)、誰にでもあるこういった部分を上手く表現できていて好きです。いい格好しいっていうのも、嫌悪感がちっとも感じられないところにも表れていて、全体として纏まっていると思います。

  3. かわいい。読んだあと声に出してしまいました。自分に酔っている系の文章なのに嫌悪させないから不思議です。補完性の有無で人との交際を決めてしまうのは寂しいと思わせといて優しくするのは本当にずるい。

  4. いつもの感情垂れ流しの文章より、きちんと整理されている感があって読みやすい。
    直接的に嵐の描写がたくさん出てくるわけではないけど、文章中で眉毛さんと「あなた」が二人で一緒にいる場面は嵐の日だけで、だからこそ読者にはこの二人=嵐のイメージが強く植え付けられるので、効果的に嵐というキーワードを使えているなと思います。

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