SEKAI NO OWARI/嵐/ノルニル

真っ赤に錆び、むき出しになった鉄骨が軋んで今にも崩れそうな音を立てる。
辺りを見渡せば、朽ち果てた高層ビル群が大きく傾いている。
その姿は、かつてこの国の首都として栄華を誇った都市の墓石を思わせた。


前世紀の末に訪れるはずだった恐怖の大王は、すこし遅れてやってきた。
光の速さでも8分20秒かかる、はるか遠くの太陽の表面で起きた爆発がこの星にとてつもない衝撃を与えたのだ。
爆発で生じた太陽嵐、つまり想像を絶するほどの電磁波により地球全土の電力システム、電子機器は全て故障。通信衛星の破損によりインターネットも不通。社会システムは文字通り崩壊した。

その後に起こる混乱に乗じた暴動、略奪、強盗強姦放火殺人。人々は降りかかるストレスに耐え切れず、獣のようにただひたすら何もかもを奪い合い、傷つけ合った。

生き残り、正気に返った人々が見たのは完膚なきまでに滅ぼされた母なる星の姿だった。人々は自らの行いを恥じ、そして恐れ、地下にシェルターを築いた。
シェルターで暮らす者たちは天井をおおうスクリーンに映し出された、雲ひとつなく澄んだ青空と満天の星空の下で過ごした。長く続いた戦争により汚染された大気や水も、分留システムにより清浄なものへと生まれ変わった。
もしこの世に天国が存在するとすれば、このシェルターは間違いなく天国に一番近い場所だったといえる。それほどまでにシェルターでの暮らしは平和で理想的だった。

しかし私は、本当の空を目指した。私は、シェルターでの暮らしがまやかしでしかないことにいつしか気づいてしまった。
いくら空気や水や食べ物を浄化して生き長らえても、いずれ限界点が訪れるのは目に見えている。このまま世界は緩やかに、静かなる終焉を迎えるだろう。
どうせ破滅するなら、この星の姿をしっかりと見届けてからの方がマシだ。死ぬときに見上げるのがつくりものの空では、あまりに切なすぎる。
分留システムに使われる換気用ダクトのシャフトに潜入し、地上まで3000メートルを携帯ウィンチと固定アンカーで登っていく。気の遠くなるほどの距離を進みようやく辿り着いた地上は、想像していたより絶望的ではないように思えた。


<** 汚染エリア 有害な***に注意 被曝すれば**のおそれがあります>

<地上では****の発症リスクが**倍から**倍にまで高まります!>

<無断でシェルターを出た者は連邦政府により****されます>

まったく、誰がこんなところに立て看板を設置したのか。大事な箇所を強調したいからと赤い塗料で塗ると、紫外線の効果によりその部分が一番最初に消えてしまうのだ。

設置した者の不手際にひとしきり笑ったあと、倒壊したビルのなか、出口を求めてさまよい歩いた。
かつてガラスが嵌められていた窓は枠を残して全てがら空きになっていて、そこから日の光が痛いほどにまぶしく差し込んでくる。
ワイヤーが切れ、ただの鉄の箱になったエレベータからようやく外へとはいずり出た時には、もう日も暮れるころだった。
夕日を見るのはいつ頃振りだろう。だが、それを眺めるのもこれが最後になるかもしれない。
そんなことを考えながら、ビルの谷間に陽が沈むのをただひたすらじっと見ていた。

次第に辺りが暗くなり、急激に刺すほどの冷気が襲ってきた。
人間の営みによる温室効果ガスが排出されず、かつての戦争で大洋の水も枯れ果て大陸と海洋との熱交換も生まれないために、夜になると地球の熱はほとんどが宇宙へと放射されていく。
極寒の地でも過ごせるスーツを着こみ、食糧もいくらかは持ってきたものの、このままではあとどれだけ保つかわからない。
諦めにも似た境地でふと空を見上げて、驚いた。

オーロラだ。赤、青、緑……鮮やかな光のカーテンが、ゆっくりとゆらめいている。
太陽風が地球の電離層に干渉することにより生まれる、大いなる自然の神秘。かつて限られた地域のみで観測されたそれは地球全域をおおう磁気嵐により、ありとあらゆる場所で発生するようになったという。
存在の確かささえ疑いたくなるようなそれを捉えようと必死になるものの、だんだんと眼が、それだけでなく頭もぼんやりとしてきた。

それでも力の限り、しっかりと目を見開き、霞む視界に目を凝らす。
ゆらゆら、ゆらり。世界の終わりを告げる帳がはためく下に、いつしか思考は溶け出し、身体は宇宙に包まれるように感じた。

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「SEKAI NO OWARI/嵐/ノルニル」への4件のフィードバック

  1. 個人的な印象なのですが、強盗殺人ときたあとに放火ってなるとすごく面白いのです。
    江戸時代か、男子高校生か、みたいな。それが今回書いてあったのでツボでした。
    SF好きなので(知識はないけど)楽しく読みました。こういう地上のことを知らないパターンでは地上に出てオチがある、というのが鉄板?だと思います。オチを期待してないといえば嘘になりますが、それでも満足できる内容でした。説明も鼻につきませんでした。最終的に主人公は何か発症するのか、続きが気になります。

  2. 設定がきちんと納得できるように書いてあって読みやすかったです。一方で主人公が外に何しに行くのか(死にに行くのか開発しに行くのか)が少しブレてぼやけてしまったように思えました。

  3. 典型的なSFという感じですが、描写がちょうどよく丁寧だったので飽きずに読むことができました。最後がとても切ないですね。冒頭ちょいちょいコミカルな表現が入りますが、それで少し文章のジャンルのミスリードが起こるのは狙ってのことなのでしょうか。

  4. 理論的な説明によって、SFの世界観をリアルに仕立て上げられていました。立て看板を笑うところなど、ところどころにニヒルな主人公像が見えてイメージしやすかった。

    ん?って思ったのは地上に出た時に空について何も描写が無かったこと。前半で「つくりものの空」への不満が書かれていたので、そこはまず回収されるのかなと思っていた。それがあればオーロラへの繋がりも良くなったと思いました。

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