セイヤ、あるいはホワイトクリスマス/においのクリスマス/染色体XY太郎

テンポを増してゆくリズムに合わせて口から漏れる声。
メトロノームは私だ。
その共同作業、反復運動の果てに、また一つ、六畳間に中身の詰まったゴム袋が転がった。

何度目だろう。
数える気もないくせに。
外のはきっと寒い。けれどもこの部屋で、掛け布団も被らすまに、ひたすらに重なり続ける。じっとりと、乱れた髪が鈍く光る額に張り付いている。天井では、靄のように熱気が渦巻いている。
体を起こす。そして、肢体に煮詰められた白を塗りたくる。しかし、決してそのキャンパスを覆い尽くす事はない。そのまま、湿った布団に倒れこむ。背中から蒸気が絶え間なく立ち上っている。
甘い、
饐えた、
生臭い、
どの言葉を使ってもしっくりこない。敢えて言うなれば “澱んだ” と言ったところか。
立ち上がると、腹が鳴って、思わず二人して声をあげて笑った。そうして、電気を点けずにこたつへ向かった。
甘い、甘い、ホールケーキ。の残骸。互いにそれを食べさせ合う。生クリームで汚れていく、手、顔、口、唇、舌。同じだねと微笑む顔に、ああ、どうしても目を向けることができなくて、抱きしめることしかできなかった
そうしている内に、蒸気は絶えていたので、そのまま、布団へ戻った。部屋はますます澱んでいった。

いつの間にか、外からオレンジの光が消えて、空も黒から紺に変わっていた。
わざとテンポを落としてみたけれど、空は藍色に染まっていた。
雪が降ればいいのにと願ったけれど、もう、空は青かった。
どうしても顔を見たくなくて、ずっと窓の外を見ていると、突然、目の前が真っ白になった。あんまりに眩しくて、目をつぶった拍子にそのまま果ててしまった。でも、最初、二人ともそのことに気づいていなくて、太陽が顔を出しきって初めて気がついた。でも、そのまま、なんでもない日のように、たわいもない話を続けた。そうしていると、もう別れの挨拶も済ませてしまったので、そうするしかなかった。そうのだ。
「あなたの子供はいらないかな」
思っていた通り、曖昧に笑った。

一人になっても、窓を開けないでいた。
外は雲ひとつない青空で、思わずカーテンを閉めた。閉め切った部屋は、薄暗かった。
こたつで冷え切った鳥のから揚げを食べた。まずかった。甘い、饐えた、生臭い、澱んだ匂いはもうしなかった。

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「セイヤ、あるいはホワイトクリスマス/においのクリスマス/染色体XY太郎」への4件のフィードバック

  1. 「性夜」という言葉が広まった現在、このテーマでスペルミンの香りはもはや鉄板ですね。
    展開部で「体」の一字が繰り返され単調になってしまった点は残念です。「どうしようもなくて~」の繰り返しは狙ったのかもしれませんが、結局は単純に語彙力不足のように見えてしまい、イマイチ効果を発揮できなかったように感じます。
    ただ、「あなたの子供はいらないかな」のセリフにはハッとさせられました。見事です。
    また、前後半で続けて改行で強調される匂いの表現は、言葉の並びがよくなかったのか改行を不要だと感じてしまいました。「生臭い、獣臭い」とすると途端にリズムが崩れてしまうのでいっそのことどちらか一つに絞った方がいいかもしれません。

  2. 同じスペルミン文(?)を私も書きましたが、相手の有無で全く違くなりますね。。
    ホールケーキを食べさせあうなんてエロいです。人生経験不足の私には絶対出てこない表現です。

    最後の「まずかった。」の改行はいらないような気がしました。

  3. 二人の世界に入ると他のことは何もかもどうでもよくなって、部屋と空気が汚れる生産性のない時間が流れていくのを後ろめたく思いながらもそれをさらに快感で忘れようとするみたいな、心境というか状況?に共感しました。
    1人になったときの窓を開けたくない空しい感じもリアルですね。
    最後の台詞はどういう意味なんですか!いろいろ考えましたが気になります。

  4. におい、というワードでこの手の内容はわりと核心になるなとは思ったのだけれど、なんだろう、もっと、うーん、質感とか温度とかそういうものの描写があるといいのかな、汗だったら身体のどこを流れてそれはどんな温度で感触なのか、とか。あれですね、この意見も斎藤環「関係する女、所有する男」に影響されてる部分もないとは言えないけど。
    私が個人的に匂いを感じる文章は、江國香織とかよしもとばななとかが最初に浮かんだ。やっぱり女性的な文章なのかな、めちゃくちゃやわらかい言葉で想像を連ねていくような。対して、男性だと吉田修一は貧困の匂いを感じるし、刑事物で昔っぽい作品だと多分血なまぐささとかおっさんのにおい、大衆ではなくその人の経験から凄みとか積み重ねてきたものがにおってくる感じがある。それは私の脳がそう解釈しているだけかもしれないけど、なんとなく、若い人の文章って淡々としてるかなって思う。
    変な話、前に下駄が駅のテーマで書いていた話の方がにおいを感じたかも。思い出の回想が広がる時に、陽のあたる静かな本棚のある部屋でページをめくる時にきしきし鳴るアルバムをめくってる感じがした。

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