心の中でMerry X’mas/匂いのクリスマス/オレオ

人通りが少ない路地を理由もなく歩いていた。
深呼吸をすると乾いた冷たい空気が鼻管を通る。
冷気だからだろうか、
何故かとても美味しく感じる。

少し人混みのある洒落た通りに出てみると、そこはまるで別世界。
街は綺羅びやかなイルミネーションで飾られて輝いていた。
中央の広場には、電球と電線で覆われたクリスマスツリーが堂々とそびえ立っている。
このツリーは今どんな気持ちなのだろうか。
巨大な木を仰ぎながら物思いに耽っていると、
男女のアベックたちが不満そうにこちらを見ていることに気付いた。

そうか、この光り輝くツリーを背景に写真を撮りたいのか。
逆光にならないのだろうかと素朴な疑問を抱きつつも、
少し申し訳なく思いながら、そっとその場を退ける。
よく周りを見渡すと、そこは若いアベックのたまり場だった。
こうなると私はかなり場違いなのかも知れない。

その後も、幻想的な通りを歩いていると、キツめの香水の匂いが幾度か交差する。
人混みだろうか、それとも甘ったるい香水のせいだろうか、
頭が痛いような、気分が悪いような、そんな感じがする。

手頃に座り場所を探して、腰をゆっくり下ろした。
「よっこらしょ」と口に出してしまう辺り、私も老いたものだ。
まるで、若者たちのたまり場に老いぼれが迷い込んでしまったようだ。
腰を掛けながら辺りの風景を見渡すと、何だか不思議な感じがした。
何故だろう、とても悲しくなった。

胸がズキズキすると同時に目頭が熱くなる。
深呼吸しようとしたが、喉に何かが突っかかっているようで上手くいかない。
精一杯、息を吸い込み、吐こうとするが
「嗚呼ぁ……」
と無残に震えた声が口から漏れるだけだった。

もしも、お前さんがまだいたら、
ああやって一緒に手を繋いで歩いていたのかも知れないな。
溢れた涙を拭い、心を落ち着かせて立ち上がる。
人が絶えない綺羅びやかな広場を抜けて、帰路につく。
香水にまみれた匂いから解放され、大きく息を吸う。
気のせいだろうか、どこか懐かしい匂いがした。

「そうだな、ずっと一緒だったな……」

自然と顔がほころんだ。

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「心の中でMerry X’mas/匂いのクリスマス/オレオ」への3件のフィードバック

  1. 懐かしい匂いとはなんだったのか、とても気になります。
    どこか寂しさを感じる文章で、感情的な書き方をしないで、たんたんと書かれているのが、それを際立てています。

  2. 思い出の匂いって、少なからず自分の中の、どこかに刻み込まれていて、あるきっかけにふと蘇ってくる感覚がとても共感できました。

    その相手にはきっとわからない、自分だけにわかる香水の匂いの特別さをどう表現するか私はかなり悩んだのですが、オレオさんの文章は最後、ベタながらもすっきりまとまっているのかなとおもいました。

  3. 感傷的なのに読みやすく、本当に文章が上手なんだなぁ、と思いました。
    描写が細やかで入り込みやすいです。

    語っている彼(彼女?)の年齢が気になりますね。それによって懐かしい匂いも大分変わってくるかと思います。

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