真っ赤なサンタ/においのクリスマス/JBoy

20年前のクリスマスの日、私の中のクリスマスという概念は180度変わってしまった。

町中が浮かれた雰囲気になり、真っ赤な衣装を身にまとったサンタがあちらこちらで右往左往している。その赤い衣装を見るたびに背筋が凍り、あの日の夜の出来事が鮮明によみがえってくる。

 

 

その日は珍しく、都心でも雪が降りいわゆるホワイトクリスマスだった。十数年ぶりだということで、数日前から天気予報のキャスターが声を大にして空模様を伝えていた。父はこの日有休をとって、母と私、二つ下の弟とともに午後から半日クリスマスパーティーの準備をしていた。折り紙でいろいろな飾りを作り、どこにしまってあったのか父が大きなクリスマスツリーを持ってきたときには、私も弟も声がかれるほどに大騒ぎしていた。

母はこの日のために丹念に料理の準備をしていた。何日も前からああでもないこうでもないと何やら企てていたのは知っていた。毎年この日のために気合を入れていたのだが、その年だけいつもと違って見えたのは、きっと今現在の自分から振り返っているからなのだろう。

 

いよいよパーティーも大詰めになりクリスマスケーキが食卓に上がった。母が作った少し不格好なブッシュドノエルだった。その大きな丸太の上には、サンタやトナカイを模したチョコレートが乗っかっていた。私たち兄弟はといえば、この時にはすでに叫びすぎて声も出ないほどに興奮していた。

宴も酣、豪華な料理を楽しんだ後、その余韻に浸りつつ名残惜しくもパーティーの片づけを始めた。私は父と一緒にオーナメントの片づけを、弟は母とともに料理の後片付けをそれぞれ手伝いながら、わちゃわちゃと笑い転げていた。

 

後片付けが終わった後、私はあっという間に過ぎてしまった至福の一日の疲れにどっと襲われ、せっせと身支度を済ませ床についてしまった。一方の弟はまだギャーギャーと騒いでいた。早く寝ないとサンタさん来てくれなくなっちゃうよ、という母のありきたりなセリフがかすかに聞こえたのを覚えている。

 

 

 

何か妙な気配がして明け方突然目を覚ました。昨晩までの楽しかった空気が嘘のように、鉛のような重さを伴って家中に充満していた。震える手足を何とか動かして部屋のドアを開けリビングに目を向けると、そこは血の海と化していた。ソファ、カーテン、あらゆるところに血が飛散しており、ツリーも倒れていた。

もはや人の体をなしていない滅多打ちにされた大小の遺骸をみて、私は頭が真っ白になり卒倒した。

その時玄関から左手に鈍器を携え、返り血を浴び真っ赤なサンタが出て行くのが遠のく意識の中でぼんやりと確認できた。見覚えのある横顔を私の脳裏に刻んで……。

 

私にとってのクリスマスは血生臭いものでしかない。あの日部屋に充満した血液の匂いは私の鼻から決して拭うことはできまい。

0 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 5 (0 投票, 平均点: 0.00,  総合点:0  |  
投票する為にはユーザ登録する必要があります。
Loading...

「真っ赤なサンタ/においのクリスマス/JBoy」への3件のフィードバック

  1. 多少ありがちですが、捉みが強くて文章に引き込まれました。
    冒頭の不穏な雰囲気が予感させるより、さらに血なまぐさかったです。中盤が牧歌的なので余計にそう感じるのでしょうか。鈍器というのがまた良いですね。

    なぜ主人公が助かったのかが気になります。

  2. トラウマという意味での嗅覚の使用は面白いです。ただ、冒頭で真っ赤なサンタを見ることによって主人公は背筋が凍っています。これによって、視覚によるトラウマっていう風に私は感じてしまいました。
    そのため、血生臭さがとってつけたように感じてしまったのは残念です。

    クリスマスのまだ楽しい家族の雰囲気であったときの匂いも描写して、それと比較するように血生臭さを書けば、その落差もあって、中々のものになると思います。

  3. クリスマスという華やかな場面と、血なまぐさというダークな場面の交差は面白いと思いました。

    20年前の幸せなクリスマスを全面に出す意識があったのか、20年前のクリスマスの描写が多いかなという印象でしたが、その多さが、状況をつかみやすくて良いのかもとおもいました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。