包んで/においのクリスマス/フチ子

自分がサンタクロースになる歳になったなんて、いまだに信じられない。娘は今日一日、ソワソワソワソワしていて、面白い。静かに耳を立てて窓の近くにじっと立っていた。「まなね、いま、『シャンシャン』きこえた!」と何度か教えてくれたが、全てバスが家の前を通る時間と被っていた。それがバスの滑り止めチェーンの音だとは決して思っていないのであろう。クリスマスは子供を惹きつける何かすごいものがあるらしい。今も昔もその威力たるや絶大だ。

ちょうど30年前のクリスマスイブ、私の母がその後よく語り出す大きな事件が起きた。当時4歳で、私は今日の愛奈のように落ち着きがなく、ボケっとしていたらしい。母はクリスマスケーキを作るので一生懸命、あんまり構ってくれなかった。心ここにあらずでシルバニアファミリーで遊んでいたら、その中の一部である小さな卵(ミニチュア冷蔵庫に一つずつ収納できる本当に小さいもの)を鼻に入れてしまったのだ。

取ろうと思ったらなおさら中に入った。焦った。

「ママ、たまご、鼻にはいった」

そう呟いた瞬間、母は血相を変えて「触らないで!じっとしてなさい!」と叫んで、タウンページをめくり始めた。もちろんケーキ作りは中断。その日は日曜日で病院が休みのところが多く、救急病院に行くしかない。電話をして事情を説明すると、今すぐ来てくださいと言われ、タクシーの手配も電話で済ませた。

母が私に何度もこの話をするから、私も当時のことを覚えている気になってしまうだけだとは思うが、このときの絶望感、焦りが、なんとなく思い浮かぶ。鼻がだめになっちゃったらどうしよう、とビクビクして、たまらなくなって、こっそり鼻に手を突っ込んで自力で取ろうとした。

「ママ、とれた」

さあ行くぞ、とコートを着始めたときに、ポッロっとヤツが出てきた。母の顔は切羽詰まった顔が拍子抜けして、安堵と間抜けなものになったと思う。

「もう、あんたって子は…」

親子二人してヘロヘロだ。母は呆れたような感じだったし、私は「良い子じゃなくなってしまった、サンタさんは私のところには行かない、と考え直しているかもしれない」と不安で不安でたまらなくなっていた。クリスマス定番の唐揚げも再開して完成したケーキも、サンタさんがわが家に来るかどうか以外考えられず、あまり喉を通ってこない。どんどん苦しくなっていき、もう何も考えずに寝ようと思った。実際に寝付くまでにかなり時間はかかったが。

翌朝。素敵な、特別な包装紙にくるまれたプレゼントを見た。ピカピカキラキラ輝いている。ああ、サンタさんって優しいな、と思いながら包装紙を開けた。

あの包装紙の匂いと、愛奈の包装紙の匂いはきっと同じ。このドキドキを、母親も感じていたのだろうか。プレゼントの中身はきっとすぐに成長して、いらなくなっちゃう運命だけど、包装紙は綺麗にたたんで宝物箱に入れておこう。そうすれば、あと10年後くらいの大掃除のときに4歳の無邪気なクリスマスの思い出を、愛奈に語るきっかけになるだろうから。ぐうすか寝ている愛奈の枕元に、こっそりプレゼントを忍ばせる。明日、目が落ちそうなほど驚いた愛奈の姿が見れますように。

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「包んで/においのクリスマス/フチ子」への3件のフィードバック

  1. 親から子へと受け継がれていくこの感じ良いですね。サンタさんを待つ子供の無邪気さもほっこりします。王道だからこそ自分も含め避ける人が多いためほっこり感がより際立っています。
    改善するところがあるとすれば、娘にも何か事件が起きればより親子が近づいていいなと思います。

  2. どこにでもある日常と非日常の隙間の様な時間でしょうか、「私」のクリスマスの今と昔がほっこりとあたたかくて素敵なお話だと思いました。少し小説というよりは事実を淡々と思い出している様な書き方をしている様に読めましたので、もう少しなんといいますか、主人公目線の主人公の行動なんかを描写すると、小説らしくなるかもしれません。
    最初に「私」を何故か父親だと判断して読んでしまったのでシルバニアファミリーでん?と思っていましたが、母親だったのですね。自分がどこで文章の男女を区別していたかは分かりませんが、その辺りはフチ子さんがどういう心持ちで書いたのか教えて欲しいかもしれません。
    玩具の卵を鼻に入れるというエピソードは実際にやったことがなくても幼い頃の不可解な行動の代表例みたいなもので、ついついくすりとした後に、自分の愚行にまたもやくすりとしてしまいました。そういう何気ないエピソードを物語に入れるのは難しいので、上手くやってるなあと思って、好きです。

  3. 娘を見ながら、自分のクリスマスの思い出を回想する。決してノスタルジーにとらわれているのではなく、当事娘だった私から、自分の娘へクリスマスが渡っていく様子が、幸せを感じさせる描写から伝わってきて、今回の中で一番しました。
    おもちゃの卵を鼻に入れてしまった描写が、リアリティがあったのですが、実体験なんでしょうか。昔、近所に住んでいた子で大豆を鼻に入れてしまって、病院へ行った子を思い出しました。

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