クリスマスの四日/においのクリスマス/なべしま

「千代子、それどうしたの」
「クリスマスのプレゼント」
「あら、綺麗な指輪ね。お友達にもらったの」
金色の毛糸のような、稲の葉のような細い紐でできた指輪が千代子の手の上に乗っている。丁寧に紡がれ、複雑な幾何学模様が描き出されていた。

 

 

十二月も徐々に寒さが増してきた。冷え切った窓にレースカーテンをひく。曇り空を映すだけのガラスより、幾分かましに見えるような気がする。
よく見ると窓のさんに小さな鳥がとまっていた。小指の先ほどの寄木細工。彩色を施されたツグミだ。ただ塗ったというよりも、小さな指で何度も色を重ねたような色。相当凝って作られたのだろう。そんな繊細な鳥が四羽。手に取ってひっくり返してみると、腹に黒いペンで千代子、と書かれていた。もったいないなあと思いつつも、名前を書いて大事にする千代子のいじらしさを思うと笑みがこぼれる。これもクリスマスのプレゼントの一つだったのだろうか。プレゼントの交換をするような友人がいたのは嬉しいが、こちらはきちんとお返しをしていない。千代子もお返しに悩んだだろうに。何かお返しを見繕っておこう。

 

 

千代子は少食だ。もし数日間一人で放っておいたら、何も食べすに過ごしそうなほど。出されたから食べる、周りに心配されたくないから食べる。そんな風に見える。体が弱いというほどではなかったが、不健康に見えない限界の肉がついているだけ。そんな健康とは言い難い体つきをしていた。だから、普段から何かをつまみ食いするようなことはしない。何かをしゃぶっていた千代子を思わず問い詰めたのは、面食らってしまったからだ。勢い込んで問われ、少し怯えたような顔を見せたので慌て弁解する。
「食べたいなら、何でも食べていいよ。びっくりしたね、ごめんね」
ほっとしたような顔を見せ、口に含んでいたものを出してそのまま庭の方を指さす。
「あのひとからのプレゼントなの」

鉛筆よりも細い鳥の骨が握られていた。

 

 

人間味の薄い子ではあった。特に、何か欲しいなどとは決して言わない。もっとも物に関しては何も不自由のないようにしてきた。家の中で飽きないよう、人形や縫いぐるみは数え切れないほどあったし、洋服も同じ。あまり食べない方だから、食についても特に希望があったとは思えない。クリスマスは殊の外考えさせられる行事だ。それでも何とか全面に刺繍の施された小さな洋服一そろいを買い、箱に詰めた。
千代子が寝入ったのを確認し、枕元に箱を置く。プレゼントを置いたことの満足感と部屋の暗さから最初は気づかなかったが、枕元に置かれたプレゼントは一つではなかった。
飾り気のない真っ白の箱ではあったが、この日に枕元にあるということはきっと、クリスマスプレゼントなのだろう。そっと箱を開けるとナシの木が入っていた。数百円で買えそうな小ささだったが、甘さのあるナシの香りが漂っている。
箱から何かが飛び出してきたように思う。ウズラだ。落ち着きなく走り回ってピロロロロという鳴き声を上げた。


千代子を愛しているのは私だけではなかったということだ。問題は、プレゼントに見返りを求められているかどうか。カーテンの隙間から庭が見えた。ナシの香りは本当にこの木だけから漂ってくるものなのだろうか。あの庭からの月明かりからも、同じ匂いがしているのではないか。
明日この木を燃やしてしまおう。千代子を抱きかかえる。夜が明けるまでこうしていよう。ウズラの足音だけが場違いに楽しげだった。

0 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 5 (0 投票, 平均点: 0.00,  総合点:0  |  
投票する為にはユーザ登録する必要があります。
Loading...

「クリスマスの四日/においのクリスマス/なべしま」への3件のフィードバック

  1. 登場人物の情報がほぼないことと小物のチョイスがうまいため、仄かに不気味で幻想的な雰囲気が出ていて面白かったです。偏執的な母親の感情が伝わってきてゾクゾクしました。一方で背景が全く分からなかったためどう読むのか戸惑ってしまったところもあります。タイトルからみるとクリスマス周辺の四日かあるいはクリスマスを四年分といったところでしょうか。名前や鳥の扱いから昭和大正のイメージ。それでもそれぞれが何を表しているか読み解けませんでした。設定が気になります。

  2. 徹底して外の世界が描かれないので、プレゼントの類も本当にプレゼントなのかどうか怪しい、というのが肝なのだろう。その謎が読みにくさにも繋がってはいる。謎のままであった方が面白いのだけれど、わからないストレスが解消されないままなのは手を出しにくい。
    また、その設定と謎が中心で、物語がほとんど動いていないのが物足りなさも覚えてしまう所だろうか。

  3. 不気味でした。詳細な情報がこちらに与えられていないこと、特に物語が完結したように思えないこと、そういうところからこの不気味さが来てるのでしょう。興味深く読み進めました。というか、結局なんの話だったのかとか、キーワードが何を表しているのかとか、どこが伏線になっているかとか、全くわかりませんでした。わからないのが狙いですか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。