ふるさと/匂いのクリスマス/ ふとん

こんなクリスマスは初めてだ。

12月24日。玄関を出ると、生ぬるい空気がコート越しに身体を包んだ。

学校までの道のり。 いつものように遅刻ぎりぎりに家を出て、ぎりぎりのくせにゆっくり歩く。

商店街のくすんだピンク色のブロックの地面を革靴の底がかつ、と鳴らす。 お茶屋さんも八百屋も、客がいるのを見たことがない。スーパーがすぐ近くにある今、誰がお茶屋でお茶を、八百屋で野菜を買うんだろう。絶対に赤字のはずなのに大丈夫なんだろうか。

洋風のおしゃれな家の手入れされた深緑の植木にはオレンジ色のふさふさした花が咲いていて、家主のまめで器用な主婦であるだろう人を思い浮かべて、意外と美人ではなさそうな気がして、やめた。

きつい坂に差し掛かるところに、3回に1回くらいの頻度で遭遇する茶色くなった落ち葉をほうきで掃いているおじさんがいた。 きょうも、お寺の格言の意味はよくわからなかった。

少し上ったところの民家のブロック塀からはみ出た枝たちにグレープフルーツではないんだろうけどそれみたいな黄色い柑橘がぼんぼんぶら下がっていて、その光景への何回見ても消えない違和感がやっぱりあって、まるこちゃんとかサザエさんの背景みたいだ、と思った。

公園の脇の道の紅葉と銀杏はきょうも見事なコントラストを成していて、唐突にわたしの不満が爆発した。

まだ秋じゃないか!

いつ、冬が来るんだろう。 11月あたりからずっとそう思ってきたのに、ついに冬らしい冬が来ないままクリスマスを迎えてしまった。 暦では年末なのだから冬のはずだ。 ということは、私の知っている冬はここには来ないのかもしれない。

春、夏、秋、春、夏、秋・・・ なんとさみしい1年だろう。

冬っていうのは、クリスマスっていうのは! 去年のクリスマスを思い出す。

センターを目前に控えた私は18時頃に自習を終えて、セーラー服の上にカーディガンとダッフルコートとマフラーと手袋とムートンブーツを装備して学校を出た。

外は真っ白で、キーンと澄んだ空気とたまに通る車の微かなガソリンの匂いを分厚いマフラー越しに吸いこむ。 木の枝に葉っぱはついていなくて、代わりに雪が白く丸くもったりと乗っかっていて。 できるだけ歩きやすいように誰かの足跡の上を踏み進むと鳴る音は、わしわし、ぎゅっぎゅっ。

除雪車に積まれた歩道と車道の間の雪山に、降ったばかりのさらさらの雪が乗っかって、一粒一粒の結晶が街灯に反射してきらきらと輝く。 ディズニーランドのイッツアスモールワールドの、人工的なラメで再現した偽物とは比べ物にならない自然の美しさだ。 道を照らすのは街灯しかないのに、白が反射するおかげで地面は驚くほど明るい。

30分ほどの道のりを経て家に帰るとクリスマスパーティーの準備ができていて、鼻を赤くしたわたしを、お母さんとお父さんと妹と香ばしいチキンの匂いが迎えてくれた。


大学に着いた。 秋らしくナナカマドの実がぎっしりと生っているのを見て、現実に引き戻される。   冬が恋しかっただけのはずなのに、家族に会いたくなってしまった。 帰省まであと3日。頑張ろう。

0 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 5 (0 投票, 平均点: 0.00,  総合点:0  |  
投票する為にはユーザ登録する必要があります。
Loading...

「ふるさと/匂いのクリスマス/ ふとん」への3件のフィードバック

  1. 通学路は和田町~常盤公園だと思いましたが、どうでしょうか。というかそのイメージに引きずられて、情景描写の良し悪しが分からなくなってしまったのでそれは他の人に任せます。
    回想シーンで『ディズニーランドのイッツアスモールワールド』を使うのは避けた方がよかったかもしれません。まず第一にカタカナが長いですし、日本の雪国のイメージとはかけ離れているように思うので。

    個人経営の専門店は卸売りや問屋、簡単に言えば流通も手掛けていることが多く、今生き残っているものの中ではそれこそスーパーなどの法人と取引している店舗が多いので経営は意外と厳しくないようです。この知識が何の役に立つかと言われれば微妙ですが、知っておいて損はないでしょう。

  2. 冬らしい冬が来てない感じなんとなくわかります。実家が長野でクリスマスの今頃なんて耳痛くなるくらい寒いし、雪もそこまで多くは無いけど降ってる感じでした。横浜あったかって思います。
    ふとんさん北国の方ですか?

    あと、妄想だけでいけると思います、たぶん。俺あんましないですけど。

  3. 寒い日とガソリンの匂いというのがすごくわかった。においとはどう表せばいいものかと私も散々悩んだのだが、この歩いている情景をとめどなく描写するのはなんとなく、匂いというもののとりとめのなさ、つかめなさにあっていると感じた。
    ただ、わりと説明的なのがすっきりとしてしまって匂いたってこないところもある。もっとその情景に出会ってから、自分の中で想像を膨らませてとりとめもない文章を紡ぎだしたときの意味のわからなさに匂いは立ち現れるのではないかな。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。