ぼくには見える/眼/ネズミ

 

街は今日も人々が放つオーラでカラフルに染まっている。黄色に赤、青や緑。いつものことだが、目がチカチカしてかなわないここには様々な感情が渦巻いているのだ。

ぼくは生まれつき「感情」が見える眼を持っている。その人がその時抱いている感情がオーラとなって目に見える。感情の種類は色で判別できるようになっており、喜びだったら黄色、悲しみだったら青、怒りだったら赤、イライラだったら緑といった具合だ。これが自分以外の誰にも見えていないというのは小さい頃から気づいていたが、オーラの色が何を示すのかに気がついたのは小学校に上がってからのことだった。

 

休日だというのに駅は人で溢れ返っていた。多くの人がせわしなく歩いている。そんな人ごみをかき分け電車に乗るべく改札へと向かい、勢いよく通り抜けようとした。

「ピンポーン」

警告音と共に行く手を阻まれた。どうやらSuicaの残高が足りなかったようだ。チャージをするために振り返ると、緑のオーラをバンバン放つおっさんが突っ立っていた。これは相当イライラしている。「はいはい、急にストップしてどーもすいませんでした」と心の中で呟くと、そそくさと券売機の方へと向かった。

感情が目に見えてしまうというのは、正直言って迷惑だ。今みたいに自分に対するイライラも見えてしまうし、自分では面白いと思う話をしているとき、表情は笑っていてもその相手が退屈を示す茶色のオーラを出していたりしたらショックでしかない。時には相手の感情を知らない方が吉ということもある。何度この眼を恨んだことか。役に立つというケースもあるが、それはごく稀である。

 

15分程して、目的の駅へと降り立った。今日は付き合って1年になる彼女とのデートだ。人の気持ちがわかってしまうぼくにとって、女性と交際するのは難しいのだが、今の彼女はぼくの眼に見えている感情と表向きの感情にギャップがない。つまり思っていることは全て表に出すタイプなのだ。こういう人は他人には苦手とされやすいが、ぼくにとってはこの方がありがたい。だからこそ1年も続いている。

待ち合わせ場所に近づくと、他のカップルの放つ黄色いオーラの中に一つどす黒いオーラが見えた。彼女だ。ああ、今日はどうやら機嫌が相当悪い日らしい。一体どんな愚痴を聞かされることやら。ぼくは気を引き締めると彼女の元へと急いだ。

 

 

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「ぼくには見える/眼/ネズミ」への5件のフィードバック

  1. おや、似た話をさっきどこかで読んだような……とは思いましたが、ネズミさんの爽やかな終わり方をする感じはこのような設定にもよく合っていいと思います。1500字くらいの中で設定を設定とせずに組み込んだ話を書くのは相当難しいと思うのですが、そこまでのくどさを感じないあたりに継続の力を感じます。
    ネズミさんの話はいつもどこか優しい雰囲気があり、爽やかな気分というかなんとも言えない清涼感と安打ぐらいの笑いがオチとして用意されているバランスがとても良いと思います。無理の暗くする必要を感じない点健全だなあと思うことも多いのですが、この健全を形作る何かしらの思考があったら、是非そういうものも物語にして見て欲しいと思います。一読者の純粋な興味です。

  2. 再び自分にだけ見えてしまう系だ(笑)
    どうでもいいところだけど、緑がイライラというのは、微妙にイメージと合わない気がした。じゃあ何色ならいいんだと聞かれても分からないのだけど。
    ひとつどす黒いオーラというところでちょっと不穏な感じもしたが、自分の能力をよく思わないながらも、心の余裕と優しさで、よい終わり方になっていて、単純によかったなと思った。

  3. 全く同じようなアイディアで、自分とモロかぶりしてしまったが、全く違う話の展開だったので参考にしたいと思いました。

    今年度で幾つか小説を書いてきたのですが、自分はどうも明るいというか、ほんわかするようなものは書けなかったので、よく研究したいと思いました。

  4. 同じようなテーマを考えたけど文章にできなかった私にとって、この話はとても印象的でした。そして最後の切り方が絶妙で、続きが気になりながらもさらっと読み終えることができる最高のタイミングだと思います。いわゆる新聞の中にある小話のような感じでほっこり読むことができました。

  5. まわりと違うということで、そこまでネガティブにもなることなく普段の生活を送っているぼくの様子が、爽やかな印象を与えられました。
    最後に彼女のもとへ向かうぼくの表情が浮かび上がってくるようで、いいなと感じました。

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