キラーアイ/目/峠野颯太

中学のとき、周りでマスクが非常に流行った。ナイアガラの滝ながらに汗の吹き出る猛暑日だろうと、南極の氷に覆われているかのような極寒日だろうと、年がら年中マスクをする友達に囲まれていた。
二年生の秋頃に、新型インフルエンザによりマスク強制令が施行されたおかげで、ノーマスクはクラス内でとうとう私のみになる。マスクをしろといくら命令されても、マスクが大嫌いだった当時の私は逆らい続け、先生にも友人にも呆れられた。しかし、マスクをしていた友人が続々とウイルスに駆逐されていく中、丸腰だったにもかかわらず無傷な私を見て、マスクの効果とはいかなるものか、について先生たちによって真剣に議論されたとかされなかったとか。



このことがきっかけなのか、目力についてかなり触れられるようになった。「ウイルスを目で殺した女」「あいつの目を見たら石になる」と冗談半分で言われ続け、最初はそんなわけないだろうが、と思っていたのだが、そのうち単純な私は、あたしの目力マジ最強、と少しずつ意識し始めることになる。驚いた時に目をこれでもかというぐらい見開いたり、腹が立ったら睨んだりするようになったのもこの時からだ。



三年生になって、受験生という肩書きによってマスク強制令に従わざるを得なくなり、しぶしぶマスクをした。しかし、いざマスクをしてみると、にやける口元や鼻からこんにちはしてくる液体を隠せる、ということに気づき、マスクの快適さを思い知る。なるほど悪くないなと、私もすっかりマスクの虜になっていた。しかし、「目が怖いからマスク外せ」と異例の命令を数名の友人からしつこいほどにされ煩くて仕方がなかったが、またここでも従わなかった。そう、この頃の私は俗に言う反抗期なのだ。



ある休日、部屋着のジャージで近くのコンビニに切手を買いに出かけた。もちろんマスクはしたままだ。コンビニに到着すると、駐車場の端に、金髪やらピアスやらタバコを嗜むやらの他校のヤンキーが5人程集会を開いていた。だが私はそういう怖い連中が大の苦手なので、昼からご苦労様でーすと思いながらさっさと中に入ろうとすると、


「おい」


と声をかけられた。
はい、明日の地方新聞の一面もらったぞ。「女子中学生、暴行により重症」あるいは「女子中学生、暴行により逮捕」。そしてあたしは少女Aになるのか、と、人生の終焉を覚悟する私。そんな私の頭を真っ白にさせたのは、


「お前エリじゃね?」


という楽しげなヤンキー君の声と肩に回された手だった。違う違う、エリだなんてそんな可愛い名前じゃないよ。だからこの手をどうか退かせてはくれないか、と言って逃げるつもりが、


「手、邪魔」


と全力で睨んでいた。
何ちょっと反抗期調子乗って出しゃばってきてるの?本当に意味がわからない!こんなに馬鹿だったのかあたしは!?これで全国紙デビュー決定だよ、あぁもう駄目だ本当にごめんなさい、と来世に期待をしかけたところ、


「え…」


と蚊の鳴くような声に続き手をどけられた。逃げるが勝ちだぜ、とその隙に走って中に入り、切手と肉まんを購入して外に出た頃には、ヤンキーたちは1人もいなくなっていた。
そうか、私の目力はヤンキーをも倒すのか、また最強伝説ができてしまったぜ…と、私は意気揚々と帰っていった。





時が経った今となっては、真顔の時の目が死んでると言われる機会が増えている。ひょっとしたら、長年自分の顔を鏡で見続けていることで、とうとう自身さえも殺してしまったのかもしれない。
あぁ、やっぱり私の目力は最強なのだ。

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「キラーアイ/目/峠野颯太」への1件のフィードバック

  1. おもしろエッセイや。見習っていきたい。すべらない話もそうだが、出来事としてはそれほど面白くないことでも、いかに語るかで、俄然魅力的になるのは面白い。エッセイは個人の内的な部分を描くので、人間力を試される感じはするが、いかに己のことを語るかという自分自身との距離の取り方みたいなところが上手だと思う。おもしろかったです。

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