ココロノイロ/目/JBoy

思えば私のこの力は、きっと生まれついてのものだったろう。いや正確には自分のこの力の存在に気が付いたのは、自分が生まれてから少し時間が経って、分別というものを弁えることができるようになってからであろうが……。

 

私は人の目を見ると、その人の考えや感情が手に取るようにわかってしまうのだった。

 

ただしこの能力は生身の人間にしか適用されず、したがってテレビの生中継や映画、写真といったメディアの類を通して心を読むことはできないのであった。

子供の頃はそれが当たり前のことだと思っていた。みんな同じ力を持っているのだと思って、特に気にも留めていなかった。

しかししばらくすると周りの人間たちの表情や仕草と、実際に心のうちで思っていることが乖離していることが間々あることに気が付いた。子供のうちはまだ純粋でそうした隔たりを感じることは全くないと言ったらウソになるが、およそなかったといって差し支えなかろう。そうした環境においては、あまりこの能力は意味をなさなかった。

 

一方であの人は私のことをどう思っているのだろう、と恋愛や対人関係に苦悶する思春期には、今まで付き合ってきたこの力との付き合い方を考え直さねばならなくなってしまった。例えば私が全知全能の神の如く、あの人はあなたのことをこう思っていて云々と、この目で見た、私には何の価値もない情報を伝えることもできよう。

或いは笑顔で私に話しかけてくる同級生の本心を、影絵のようにして相手に示してやることもできる。そうすれば豆鉄砲を食った鳩のように、仰天する相手の顔を拝んで楽しむこともできるが、さすがにそれは悪趣味というものだろう。

 

無論この力のことは家族にさえ秘密であった。人間というのは異端を厳しく排除しようとするものだ、ということを知ったからだ。容姿、思考、その他どんなものでも、周りと調和しないものは異端である。

 

だから私は得てして人との接触を避けたのであった。過度な人との接触は自己を破滅へと誘う、ということを本能で感じ取り、それらからは一定の距離を保つことが私にできる精一杯の処世術であった。人々と触れ合えば触れ合うだけ正なり負なりの心の「色」が見えてしまう。

 

楽しい、うれしい、好き、愛しい、辛い、悲しい、嫌い、恨めしい、羨ましい……。

 

人と接すると、そうした色とりどりの「心」が私に洪水のように押し寄せてくる。気が動転して思わず誰もいないところで発狂したこともある。

でも私も人間、どうやっても完全無欠な一人にはなれない。誰もいない島で一人自給生活を送るほどの気概も持ち合わせてはいない。

 

私は人間離れした力を持ち合わせていながら、誰よりも人間なのであった。こればかりは比較ができぬから、持論の域を出ないけれどもそう自負している。

 

そうして私は目を閉じる決意をした。この力さえなければ私は「ふつうのひと」になれる。そうしてほぼ無意識に台所にあったアイスピックで両の目を突き刺した。のたうち回る私を母はすぐに病院へと送った。

 

 

治療を終え、包帯を取られて目に当たる太陽のぬくもりをかすかに感じながら、私は単色の世界に、もはやそれがおよそ色とも呼べぬ静寂に「喜び」を感じたのだった。

 

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「ココロノイロ/目/JBoy」への5件のフィードバック

  1. アイスピックで目玉をぶち抜く件は肝が冷えましたが、いまいち腑に落ちないところがちらほらと。文章の書き方の問題でしょうか、説明して欲しいところが抜けていたり、逆に蛇足な部分が詳細に書かれていたりして、ちょこっと読ませられにくい?印象がありました。きっと自分の中では筋道が立っているのだろうとは思いますが、大抵の場合読者は筆者の想像より馬鹿なので、もう少し点と点の間の線をはっきり引いてあげるといいかもしれません。
    読者視点からだと設定を読まされている感があるので、設定を生かした『物語』を書くように意識してみると、小説っぽい意味深さや読ませる幅とかが出ると思います。
    あと一つ気になったのですが、結局主人公は感情を表す色が見えていたんでしょうか?感情が分かるのなら、多分脳に直接響く声みたいな感じになるんじゃないかと思い、結局目を潰しても分かってしまうのではないかとちょっと引っかかりました。

  2. 淡々とした説明のようになっていたので、文章自体はまとまっていて読みやすかったが、両目を自分でつき刺すほどの苦悩は見えてこない感じがした。ずっと主人公の内面について語っているが、ある瞬間を切り取って小説のように表現する方がいいのかも知れない。
    これがホラーなのかはよく分からないし、私も書いたことがないのでどうしようもないのだが、クライマックスでもっとひやっとさせるためには、その前から少し狂気的なものとか決定的な瞬間を盛り込んでいった方がいいのではないかと思った。

  3. かなり個人的な話になりますが自分の文とほぼ同じ設定で驚きました(笑)でも話の展開とかは全く違くて同じ設定でもこんな持って行き方もあるのかとかなり勉強になりました。自分にはない発想だったので読んでいてとてもおもしろかったです。

  4. あ、そういう結論に至るのか、と思いました。人間離れしていながら自分も人間〜というような一文が私は好きでした。逃れることができないジレンマに対して最後主人公が下した結論がアイスピックなのだなぁと漠然とですが感じることができて、個人的には好きな文章でした。この前にネズミさんの文章を読んでいて、同じテーマでもここまで異なる印象を人に与えられるものかと文章の力を感じました。

  5. 人の感情が見えたら楽だなあと思ったことはありますが、見えたら見えたで苦悩するなあと感じさせられました。
    アイスピックで目を突き刺すほどに精神衰弱している描写をもっと盛り込むと感情移入しやすくなるのではないでしょうか。でも、目が見えなくなればいいというのは、ネガティブで逃げの一手でもあります。生まれつきの能力ならどっかしらで折り合いをつけていく必要があるのかなとは思います。

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