してん/眼/ケチャねえ

荒々しい風が無残にも僕の肌にふきつける。少し前まではうるさいほどいた虫たちもこの時期だけは姿を消してしまう。静けさと寂しさが一層増している。

僕は重い足取りで、自動ドアの前に立った。

 

センター試験まであと13日

 

ドアが開ききってすぐにこの文字と対面した。

「おはよう。今日も朝からえらいなあ、あきらくん。今日も数学の授業先生と一緒に頑張ろうな!」

 

こんなに寒いのにワイシャツの袖をまくしあげている。漫画にそのまま出てくるような角刈りの頭をして、朝から元気いっぱいなのは塾長である。僕の通う塾は個人塾だから、先生と生徒の距離感を大事にしているのだ。そこが大手の集団授業を行う塾とは違うのだ。と塾長が生徒たちに話していたのを聞いたことがあった。

 

僕はいつも通り2番の机に座り、先生が来るのを待った。かばんの中のテキストが重たく感じた。今日勉強する一次関数のページを開こうとするが、手の上に鉛がのったみたいに億劫。

 

「おはよう、あきらくん。今年会うのは初めてだったわね。あけましておめでとう。おせちの黒豆はちゃんと食べた?あれは将来元気にまめに働けますようにっていう願いが込められているんだからしっかり食べなきゃだめよ。先生もいっぱい仕事できるようにちゃんと食べてきたわよ。」

 

「はい。黒豆・・食べました。とってもおいしかったです・・。先生、今年も・・よろしくお願いし・・ます。」

 

先生を前にするとどうしても上手にしゃべれない。先生はきれいな顔立ちをしていて、だから好きという訳ではない。なんというか、僕が静かでめったに人と話さない性格からか、笑顔できれいな先生がキラキラしてみえてしまうのだった。

今日習う一次関数は冬休み前に学校の授業でやったものだった。復習のはずなのに、10分でといてみようかと言われ、先生にセットされたタイマーの秒針ばかりが気になってしまう。問題に集中しようと思っても手が動かないのだ。

 

10分のタイマーがなるころ、半分まで答えたのがやっとのことで、このまま顔を上にあげたら泣いてしまいそうで顔を動かすことさえできなかった。僕は自分が出来ないことが嫌なのではなく、先生に自分が“バカ”であることがバレるのが嫌なのだ。先生に僕の弱いところを見せたくない。恥ずかしい。

隣の3番の机で行っている授業の声が聞こえる。どうやら中学3年生の生徒で緊張感が違う。中学三年生がセンター試験まであと13日なら僕はあとプラス365日をした378日で隣の彼と同じ状況になるのだ。

 

どうしてよりによって先生が数学の担当なのかと神様を何度恨んだことだろうか。得意の英語ならこんな気持ちにならないのに。

 

 

 

 

「先生、あけましておめでとう。ママが作ってくれたおせち料理とってもおいしかったの。」

「黒豆はちゃんと食べたか?黒豆にはな、いっぱい働いてまめに過ごせますようにっていう願いがこめられているんだからしっかり食べろよ。

テキストの・・ページを開いてー。」

 

 

十数年たった今、僕は黒板の前で授業をする先生になった。

塾以来僕はあの先生と会うことはないけれど、先生という新たな視点にたった僕は、気づくと昔の僕の分身を、生徒の中に探しているのだった。

 

さあ、今日も授業を始めよう。

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「してん/眼/ケチャねえ」への3件のフィードバック

  1. 中学3年でセンター試験はおかしいのでは、といのがまず抱いたつっこみどころ。というか、状況が分かりづらい上にそれが物語上でどう生きてくるのか不明瞭なので、とても読みづらかった。

  2. >>山百合さん
    こんにちは、ケチャねえです。
    中学3年ではなく高校3年でした。じぶんの文章をしっかり読み直して出すべきでした。すみません…

  3. なにが書きたかったんでしょうか。目と言う単語から着想を得られなかったのであれば、敢えて外して書くのも手ですよ。

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