懐古/眼/ゆがみ

ぷわーん

「わー、電車だー!!」

今度5歳になる息子が目を輝かせている。そういえば国鉄職員だった父が元気なころは「近ごろの電車はみんな合理性ばかり重視していてつまらない」とか言っていたな。息子はそんな話そっちのけで電車を見ていたし私も聞き流していたけど、父が死んでしまってからは電車に乗るたびにそのことを思い出すようになった。

「次は○×、お出口は右側です」無機質な自動アナウンスが次の駅の接近を知らせる。私が生まれ育ったこの辺りも今は一気に開発が進められてショッピングセンターとかの高い建物が立ち並ぶようになったが、私が子供だった頃は商店街だった。

 

 

「てめーだったのかこれを盗んだのは。」

「違うって」

「じゃあなんでこれを持っているんだよ?」

「それは…」

置いてあったプラモデルがかっこよくてうっかり手に取って見てしまっただけであったが、何せ自分は当時小1である。小学校高学年であろう相手を前に何も言えなかった。

「答えられねーじゃねーか。どろぼーどろぼー」

「そうやって人をすぐドロボー扱いするのはやめなさい!」

「…すみません」

「わかったらいいの。今度からはそんなことしちゃだめだよ。」

おもちゃ屋のおばちゃんに助けられ、うれしさと安心感で泣き出してしまった。するとおばちゃんが

「あんたが悪いことしてないことくらい目を見たらわかるよ。でも次からは間違われないように気を付けるんだよ。」

 

うまく言い表せているかはわからないけれどこういう人と人との心の触れ合いがあるから昔の人間関係っていうのはいいのだと思う。今だときっとマニュアル通りの対応しかしないんだろうな。もう昔のような人情味のある商店街は戻ってこないんだなと思うと悲しくなってきた。ロクに恩返しもできないうちに父が死んでからこんなことばかり考えるようになった。そういえば商店街のおじちゃんおばちゃんたちは今頃どうしてるのだろうか。まだ生きていたら後悔しないように恩返ししたい。

 

「パパー、降りるよー」

どうやら考え事をしているうちに目的地に着いていたようだ。幼稚園児に言われるなんて情けない。そのうち息子にも「懐かしさ」を感じることがあるのだろうか?そんなことを考えながら階段を上がり、自動改札を通り抜けた。

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「懐古/眼/ゆがみ」への4件のフィードバック

  1. 最初のぷわーんがいいですね。
    私も商店街のあたたかいコミュニケーションが欲しいと思います。今は商店街はあっても昔から顔見知りのお客さんという存在はものすごく貴重な気がします。
    悪いことをしたかどうか目で判断する世の中だったら、正解率はどれくらいなのでしょうね。

  2. 何かを見てふと昔の記憶が蘇るということは私もよくあります。年を重ねるごとに増えたような気がします。
    「うまく言い表わせているのかわからないけれど」というところが少々気になりました。主人公が勝手に懐古しているだけだから、この部分は要らないと思います。

  3. 最初のぷわーんがあたたかく耳元で再生された。それから展開される物語のノスタルジーな雰囲気に良くあっている。
    粗探し気味ではあるけど、商店街のじいちゃんばあちゃんが生きてたら「恩返しがしたい」というのは、若干大袈裟でここまでの柔らかい日常の流れを壊してしまっているように感じた。また会いたいとかくらいでもいいのでは。

  4. 素朴さやノスタルジーな感じが良く出てると思います。一方で状況の説明や会話時のリアクションなどはもっと書き込んだ方が良いとも思いました。

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