異端といえばそれまで/目/θn

席替えをしたら小林くんが隣になった。
小林くんはちょっと変だ。毎回出席番号を書かなくて先生に怒られたり、いっつもすごく重そうでふるそうなアナログの時計をしていたり。
あと、携帯はもってないし、数学の授業をよく休むとか。
運動もできるのに、記録会の日にいないことが多いから、あんま目立たない、とか。

成績は悪いわけじゃない。
でも、変なところがすごく変。そんな小林くんが隣になった。

(あ、定規忘れた)

地理の時間。自分の家の周りの地図を作ろう、みたいな授業だった。縮尺をちゃんとしなきゃいけないのに、そんな日に限って筆箱に定規が入ってない。昨日数学の宿題をして、そのまま入れ忘れたのかも。

「ごめん小林くん、終わってからでいいから定規貸してくれないかな」
「ん、ノープロブレム。構わんよー」

すぐに差し出された定規。
明らかにおかしかった。

「小林くん、これ」

目盛りの部分が名前ペンで塗りつぶされている。

「これどうやって長さ測るの」
「んー、フィーリングやね」
「ふぃ、フィーリング」

確かにおかしい!
……なんでこんなことをするのか、私は少し不思議に思った。

「ね、小林くんはなんでこんなことするのかな。授業とかもよく休むし……」
「……ふむ、俺の行動に興味を持ったようだな」
「興味っていうか……」
「特別に俺の秘密を教えてやろう!」

私の話なんて聞いちゃいない。

「秘密ってなんなの?」
「お前、高所恐怖症?」
「え?まあそうかも」

高いところは好きじゃない。落ちるんじゃないかと不安になって足がすくむ。

そんな感じで世の中には恐怖症ってのがいっぱいある。
小林くんはそう前置きして私に告げた。

「俺は、ゾロ目恐怖症なんだ」

ゾロ目。例に挙げるなら11。777。要は同じ数字が並んでること。
それが小林くんは怖いのだという。そんな人間がいるのか。

「なんで」
「俺もよーわからん。ゾロ目を見ると吐き気がするし頭が痛くなる。生理的に無理、というやつかもしれんな」
「でもそれ、生きていくのに不便なんじゃ」
「イグザクトリイ!ひじょおおおに面倒だ」

携帯やデジタル時計は、2:22みたいなことが頻繁に起こるから持てない。
数学の授業にでないのも、数字を取り扱う授業なんだから当然ゾロ目が頻出する。以前気分が悪くなってそれっきりらしい。

「今年は出席番号が11番だったのが運のツキ。あまりにもついとらん」

……信じられないという気持ちが大きかったけれど、妙に小林くんが晴れ晴れと語るものだから私は、逆に切ない気分になっていた。

「先生に言わないの?」

小林くんが変、というイメージは先生発みたいなところがある。
授業をサボったりするからよくない印象なのは当たり前だけどそんな理由があるなら、先生だって少しは考えてくれるんじゃないか、そしたらクラスのみんなも変わるんじゃないか。

「言ったところでなんも変わらんよ」

そんな私の考えも、小林くんはあっけらかんと切り捨てた。

「これまでもずっとそうやった。ゾロ目が怖いなんて言って、信じてくれる人はおらんよ。ふざけんなとか、嘘つけとか、散々言われた。親もいずれ治るんだから我慢しろってな。まあ、その通りだ。ザッツライト」

いずれ治る。そうかもしれない。そうかもしれないけど……。

高いところが怖い人は沢山いるから、みんな優しい。
だから怖いことはダメなことじゃないのに。みんなが怖くないものが怖い。
それだけで変な奴みたいに生きなきゃいけないなんて。

「私は!変じゃないと思う!」

小林くんが目を丸くして驚いてたけど、そんなの気にしてる暇なかった。

「私はゾロ目が怖いこと変じゃないと思う!小林くんだって、まだ全然知らないけど、優しいし、いい人だと思う!変じゃないよ!」

同情とかじゃなくて、そう思ったの。
そこまで言うと小林くんはやっと顔を緩めて笑った。

「そーかそーか。なんとなくお前ならそう言ってくれると思った。よかった」

差し出された手を両手で握る。

「これからもよろしくだ」
「うん!私も、できることがあるなら頑張るね!」

「それでほんとにすまんのだが……」
小林くんは申し訳なさそうに私の名前を聞いてきた。

「イマイチみんな、顔と名前が繋がってない。すまん。ソーリー」
「全然いいよ。私は、森千春。」
「森。森か。オーケー、覚えた。……ん?」
「ん??」
「お前出席番号33番か」

あ。

「グッバイだ、森」
小林くんは露骨に背を向けた。

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「異端といえばそれまで/目/θn」への2件のフィードバック

  1. 森ってぞろ目っぽい、と思ったら面白かった。軽く読める文として、ついてはいけないけど、面白い。来年出席番号変わったらまた仲良くなれるかもね。

    ただ、文に引き込まれる!みたいなものはなかったので、惜しいなあと思った。

  2. なるほど「目」ですね!少数だと弱いみたいな部分も読みやすく、面白かったです。
    話し方からすると小林くんがゾロ目恐怖症であることを除いても変だと思えるので、主人公がかなりの天然ちゃんにみえます。

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