魅惑の力/目/ふとん

 

目は、恐ろしいくらいに力を持っている。

誰の目が大きいとか小さいとか、誰に目力があって誰にないとか、そういうことじゃなくて、

目には力がある。

いつからか私は、目の力に魅せられてしまった。

 

目は人を支配する。

見る方は見られる方に優越する。

一歩外に出れば、顔、髪型、体形、服装、行動といったあらゆる情報が見る人に与えられて、見られる側は多大な情報を盗まれることになる。

盗まれてしまった情報は取り返すことが出来ないから、対等になるには自分も相手を見なくてはいけない。

優位に立つには相手に知られないまま、その視線に気づかなければいけない。

探偵や盗撮は極めて卑怯だと思う。こちらが絶対に気付かないように見てくるのだから。

 

だから私は、電車の中で人を見る。

ほとんどの人はそんなことを微塵も気にせずに、スマホの画面や文庫本の文字列に集中している。その中に一人でも自分を見るような人がいると、急に心臓がバクバクしだして、その場を逃げ出したくなる。

 

私の顔を見て、格好を見て、何を思っている?

 

何も気にしていない素振りでさりげなく違う方向を見ているふりをしながら、頭の中がパニックになる。

自意識過剰とは分かっていても、目に翻弄される日々だ。

 

 

 

目は吐き出し、飲み込む。

人の感情は目から流れ出す。

言葉で塗り固めても、隠しても、一瞬の感情の揺らぎはどうしても目に出てしまう。

特殊な能力を持っているわけでなくても、目は、ときには知りたくないことも受け取ってしまう。

夜。同じ布団で抱き合った、けど。キスした、けど。好きだと言った、けど。

翌朝、私は彼の目を見つめた。その目から私への愛が注がれることはなかった。

そっか、そういう感じか。自分が減る感覚。「次」はたぶんない。

 

 

目は虜にする。

高校生のころがきっかけだった。

何気ないことでクラスの男子に後ろから話しかけられた。振り向いて、目を見ながら聞き返した瞬間、相手が顔を赤くして、目を逸らした。

普通こういう反応をされたら彼が自分のことを好きなんじゃないかと考えると思うけど、なんとなく、その時彼は私自身ではなくて、私の「目」に反応した気がした。

 

あの時、私はどんな目をしていたっけ。

 

好きだった生徒会の先輩とふざけながらいろんな話をしていたとき、ふとそのことを思い出して、試してみたくなってしまった。

見つめてみた。想いを全部目から吐き出すイメージで。

私の「好き」は思った通りに、うまく流れ出た、気がした。

すると先輩は私の目を見たまま、固まってしまった。と思ったら、なんと過呼吸になってしまった。冗談かと思ったら本当に苦しそうで、すごく焦った。

しばらくすると何事も無かったかのように、元の先輩に戻った。

多分わたしのせいだった。想いが強すぎたのかもしれない、と思った。

 

すごい……!

 

目の力を確信した私はそれを何度も使った。

目から、感情を流すだけ。感情はすぐに作れた。

好きな気持ちを作ると、心臓がドキドキして目が潤んでくるのが分かる。

数学の先生に職員室で質問しているときに使った。廊下ですれ違いざまに目が合うだけで顔を赤くするようになった。

日本史の先生を授業中に見つめた。ほんの一瞬、授業が停止してしまった。

塾の先生は講師室で、目は赤く、今にも零れ落ちそうなくらいにうるうるときらめいた。

 

 

 

今思えば人を弄ぶ最悪な行為だし、夢のような話だ。

目の力を濫用しなくなって、あれは本当だったのかわからなくなる。

全部夢か、妄想だったのではないか。

わからない。次に使うときまで。

 

 

 

 

 

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