妥協/嫌い/YDK

 
「わたし、自分のこと嫌いなんだよね」
耳に突っ込んだイヤホンから流れる一昔前の曲を聴きながら、次の会議の準備をしていると、斜め右後ろくらいからこんな声が聞こえてきた。ちらりとその声の発生元を見ると、女子高生くらいだろうか?女の子が笑いながら周りの取り巻き達にそんなことを言っていた。わたしはすぐに視線を前に戻し、喫茶店を後にする。

「自分が嫌い、ねぇ……」

吐き出した煙が私の呟きとともに消えていく。オフィスに戻り、残り少ない休憩時間をフルに使って食後の一服を楽しむ、私の日課である。なんとなくさっきの女の子の言葉を思い出して、自分の若いころとダブってしまった。私にもあんな風に周りに言っていた時期があったなぁ…いま思い返すとなんとなく微笑ましくなってきた。……お、うまく輪っかが出来た。
自分のことを好きになったのはいつからだろうか。小中高といい子ちゃんでいたせいか、なんとなく心は空っぽで虚しい思いをずっとしていた。親に甘えることもなく、褒められることだけが嬉しかったから、気をまわしながら生きてきた。そんな自分のことが嫌いで、素直に可愛く甘えられる女の子のことに嫉妬したりして、嫉妬する自分がまた嫌いになっていた。ぐるぐるしながら、なんとなく嫌な気持ちになって保健室に逃げてたりしたけど、やっぱりそんな自分が嫌いだった。

とんとん、灰を落とす。

大学に入って上京してきて、改めて1人を痛感した。家族も知り合いもいない中で、ひたすら寂しさを感じていた。逃げ込める保健室も無くなってしまったし、家に帰っても家族がいるわけではない。部屋の隅で腐っていても家事は溜まっていくし、生きていくためには最低限のことをしなければならない。昔の友達は、みんなそつなく生活している話を聞き、より劣等感が高まっていった。

そんな時、1人の友達に出会った。高校を出た後、身一つで東京にきたという彼女はガールズバーを3件掛け持ちでバイトしていて、そこで捕まえた男と半同棲、彼は彼女のために大学を辞めてしまった。ここまで聞いてもかなり壮絶そうだが、極め付けは、彼女はその男と結婚する気も付き合いを長くする気もないらしい。そして彼女には変な癖?のようなものがあり、コンビニで新作スイーツを手当たり次第買って、家に帰って一口だけ食べて捨てる、という行為を繰り返している。エンドルフィン食い、と彼女は豪語していた。笑えるけど笑えないぞ、そのギャグ。

だけど、彼女はとても元気だ。やっていることは明らかにおかしいけど、そんなことを気にも止めずに、笑顔で生きている。私だったら猛烈な自己嫌悪に陥っているだろうに。
「自分が選んだことだから。まぁそれに、めんどくさいじゃん?悩むの」
その言葉が全てだった。あまりにも簡単なことで笑いがでる。そうか、なるほど……。

この時から私はいろんなことに適当になることができたし、日曜日に一日中寝ることもできるようになった。(昔は1日寝ることへの罪悪感がひどかった)自分の変なところダメなところ丸ごとを許容できた。まぁ、よく言えば大人になったし、思考への妥協を覚えてしまったのだと思う。
結局、今も昔も自分のことを嫌いな自分のことを好きなだけかもな、なんてやっぱり思考に折り合いをつけて、タバコをもみ消した。

 

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「妥協/嫌い/YDK」への2件のフィードバック

  1. 思いをふけるというのにタバコがよくあっていますね。大学への転換で灰を落とすといって切れ目をいれるというのはのは効果的だなと思います。ただ悩んでいた割にはなんだかあまりにも簡単に解決してしまったような気がしてしまいます。なにか本人の中で葛藤があった方がこちらとしては受け止めやすかったかもしれないです。

  2. 主人公も、自分のことを好きになったのでは決してなく、嫌いじゃなくなった、だけなんでしょうね。自己嫌悪で縛っていたものを許してあげただけというか。そうやって、大人になって子供のときほど嫌いなものはなくなったような気はするけど、その分好きなものが増えたわけでは全然なくて、文章にもある「妥協」みたいなものになっただけなのでしょう。

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